商品知識をどのように位置づけるのか?【営業職編】

営業職の多くは商品知識の獲得に日々努力している。それは営業職にとって商品知識が必須だと思っているからに他ならない。

なのに、商品知識をどのように位置づけ、どの程度必要なのかを論理的に説明できる方は少ない。

だから、今回はこの事について解説したい。

先日、ある営業職Xさんからこんな質問を受けた。
「川端さん、商品知識ってどの程度大事なんですかね?
課長から、『商品知識をもっと身につけなさい。商品知識がない営業はプレゼンもお客様対応でも不利になるから最重要課題だぞ』と言われまして。私は社歴も業界歴も短くて、商品知識も平均程度しかないものですから」

まず少なくとも課長が言うように、商品知識は最重要課題などではない。
社内のそれぞれの営業職の数字を比較すれば分かると思うが、営業実績は商品知識の豊富な順になどなっていない。
まして、業界歴などもっと関係ない。
こうしたことはほとんどの業界で言えることであり、また少なくとも商品知識が最重要課題などではないという根拠として十分なモノではないだろうか?

また、あなたの周りにもいないだろうか?
商品知識は豊富にあるのに営業実績が伴わない営業職、或いは商品知識はないのに営業実績はいい営業職。
一方で、営業実績も商品知識も両立している営業職も、どちらもない営業職もいる。
これらのことはシンプルに考えれば、一つの事実を示している。
繰り返しになるが、それは商品知識と営業実績の間に因果関係があまり見られないということである。
少なくとも最重要課題などではないと断言していいだろう。

 

 

 

 

 

反対意見に答える

勿論、反論として「お客様は商品知識のない営業職とは安心して契約を交わせないのではないか?」という意見もあるだろう。
確かに「商品知識がある営業職の方が信頼出来る」というのが多くの方が思う事ではある。しかし、「商品知識がある営業職の方がいい」という事と、「営業職にとって商品知識は必須である→商品知識は最重要課題である」というのは全く別の話である。
何故なら、お客様にとって【商品の魅力より営業職の魅力が占める割合が勝る】こと、或いは【魅力的な営業職が取り扱うことによって商品が魅力的に見えてくる】ことがあるからである。当然、【商品知識の不足を補って余りある営業職への好印象】だってよく生まれることである。
そして、少し見る角度を変えてみると、お客様はそこに営業職という売り手が介在すれば、「営業職への好印象」から「とりあえず話を聞いてもいいかな」と無条件にチャンスを提供する場合が数多くあるからである。
この時点では「営業職がどの程度商品知識を持っているか」などは全く関係ない。
その好印象を形作るのは多くの場合、【営業職の真面目さ、熱意、誠実さ】である。
そして、お客様との商談を終えた段階でその好印象が持続、あるいは増していれば、契約への距離が縮まっていくことがあるということである。
(よくお客様のニーズを満たすことを至上課題としている方がいるが、このように『お気に入りの営業職の努力に報いてあげたい』という気持ちから契約や注文になることはいくらでもあり、そうした部分抜きにしてお客様のニーズだけを追い求めても営業という仕事は理解できない。)
この段階において初めて商品知識が問われることになる。

 

 

 

 

 

実は、お客様と営業職の関係で最も多いのは・・・

そして、営業職とお客様の関係で最も多いのが、「営業職への好印象」を抱く手前である。会って話を聞く、さらに手前である。
或いは、会って話は聞いたが、好印象を抱いていないという状況も多いだろう。
(この場合も、会って話をしただけで、契約までの距離は実は「営業職への好印象」を抱く手前とほとんど変わらない。)
つまり、現実にはほとんどの場合は商品知識を問われる手前付近にいることになる。

言い方を変えれば、ほとんどの営業職にとって、最初にクリアすべき課題にして、最大の壁は『お客様に好感を抱かれること』であり、商品知識を披露するまで至っていない場合がほとんどである。

更に言うなら、道のりとしては「お客様から好印象を抱かれる」までの方が、この後の商談に至り、契約に至るまでよりはるかに長く難しいモノであると思う。
何故なら、【営業職とお客様の関係が、まだ会えてない、まだ話すら聞いてもらってない状態】にあるのが最も多いからである。
私はシンプルにそう考えている。

 

 

 

 

 

商品知識を問われる商談の場においても・・

また、商品知識が問われる商談においても、実は全ての質問に即答が必要な場合の方が珍しい。
分からない場合は「確認して折り返す」「再度説明に行く」という回答で十分である。
むしろ、分からないことを誤魔化したり、分からない場合に曖昧な回答をするなどして、そこまでお客様が抱いていた好感を損ねる方がはるかにリスクは高い。
裏を返せば、商品知識とはどの質問にも即答できるほどでなく、商談においてお客様の心象を損ねない程度で十分であるということである。
営業職が思っているほど、お客様はその場で全ての疑問を解消することにこだわってなどいないし、時間的なゆとりがない訳ではない
多くの営業職が抱いている「分かりません」と答える事への抵抗や、無理をしてその場で間違った回答をしてしまうのは、営業職の独り相撲である。
(こうしたことは実はクレーム対応においても同様である。クレームを受けたその場で答えられない時は「きちんと確認して回答します」で何も問題ない。それでお客様の怒りが増幅する時は他の理由を探すべきだろう。)

しかし、ビジネスの現場で何が起こっているかと言うと、それを見たり評価したりする者が営業職の不調の原因をお客様の意見も聞かずに、勝手に「商品知識の不足」と決めつけ、さらにそれを指摘し、指摘された営業職がやりにくくなる、或いはモチベーションが下がってしまうという現象である。
これもまた独り相撲なのではないだろうか?

 

 

 

 

営業という仕事

私はこれまで営業職の最重要課題は「お客様との人間関係構築」であると繰り返し主張してきた。
では、『商品知識など全くなくてもいいのだろうか?』と言われれば、それも違う。

商品知識とは「お客様との人間関係を構築するための一つのツール」である。
お客様と営業職と言う立場で出会っている以上、営業職側の意志とは関係なく、お客様はまずは商品について聞いてくる場合がある。
あるいは話の取っ掛かりが自然と商品やサービスの説明になることもあるだろうし、何より商談の場では商品知識を披露することになる。
その時、「営業職でありながら基本的な自社商品の説明も出来ない」「商品についての初歩的な質問にすら答えられない」という評価をされてはお客様の好印象を失いかねないのも事実である。
そのような状況になれば「いい加減な人間である」との烙印をお客様に押されかねないだろう。(こうした事が許されるのは社会人なりたての営業職くらいだろう)
逆に言えば、そういう評価をされない程度の商品知識で十分であるという事である。

繰り返すが、どちらかと言うと分からないことは分からないとはっきりと伝え、回答期限を設定し、それまでにきちんと回答する、そしてその回答でお客様の疑問が解消されたのかを丁寧に確認するという一連の動作を続ける方がよほど重要である。
これさえ、きちんと出来れば商品知識の量は結果に大きな影響を与えることはない。
時折、ストイックな営業職がとてつもない商品知識を持っているが、それが無くとも実績自体は十分出せる。

 

 

 

 

 

お客様の立場に立って考えてみよう!

こうしたことはご自身が買い物する立場に立って考えれば、想像できるのではないだろうか?

恐らく売り手が存在するあらゆる買い物において、その売り手の商品知識が最重要視されることなど珍しいケースだろう。
売り手への印象は『いかに真面目で、真剣で、そして誠実な態度で接しているか』でほぼ決まってしまうのではないだろうか?

そして、お客様に好感を抱いてもらうというステップさえクリアすれば、あとは自分とお客様との距離を埋めるという作業に入れる。
この作業を立ち止まらずに進めるか、一度止まって再スタートするのかという違いを生むくらいの意味しか商品知識にはない。
何故なら、お客様からの質問の回答が出来なかった場合の大半は、営業職が商談を終え、少し時間をかけて調べれば回答できるからである。

こうしたことからも分かるように、商品知識とは良くも悪くも、お客様との距離を詰めるという作業の潤滑剤程度の働きしかなく、誠実な態度さえ保てばそれ以上でもそれ以下でもない。
営業職が思うほど、お客様は商品知識に重点など置いていないのだ。
まして、質問で即答することなどほとんど求めてなどいない。

 

 

 

 

 

お客様が営業職に求めていること

お客様が求めるのは、自身が好感を抱いた営業職がその期待を裏切ることなく、真面目に着実に一つ一つのプロセスを踏んでくれ、安心して注文や契約を完結できる事、そして契約後も誠実に悩みや困っていることに向き合ってくれることなのだから。