初回相談無料(オンラインも可)
営業の悩みは専門家へご相談下さい
©2024 Satomi Eigyo Sodansho

NEWS

営業職がニーズの把握に努力しても契約にならない本当の理由

2021.03.11
営業職がニーズの把握に努力しても契約にならない本当の理由

営業という仕事の成否は「お客様のニーズをいかに掴むか」である。こう教える管理職は多い。これは私が営業デビューした20年前からずっと言われてきた営業の基本的な考え方である。果たしてこれはどこまで本当なのか。今回はそれを解き明かしていく。

ニーズとは「お客様の要求、需要、必要性」である。
もっと簡単に言うなら、お客様が「欲しいモノ、こと」である。
私がこのテーマを扱うきっかけとなったのは相談者Aさん(営業職)にこんな質問を受けたことだ。以下、その後の私とのやり取りである。
Aさん「川端さん、お客様のニーズってどうやって掴めばいいんですか?『営業はお客様のニーズを把握することが全てで、それさえ出来れば契約が決まる』と何かで読んで、関係ありそうなブログの記事などを片っ端から読んでみたんですけど、なかなかうまくいかなくて」
川端「ニーズを掴むことを目標に設定してもうまくいかないと思いますよ。」
Aさん「えっ?どういうことですか?」
川端「それでは、お聞きします。Aさんは自分の悩みを誰にでも打ち明けますか?」
Aさん「いや、それは無理です。ある程度、打ち解けて信用していないと」
私「それと根本的には同じことです。ビジネスの現場におけるニーズとは、要はビジネスの現場において発生したお客様の悩みですよね。つまり、ニーズを掴むとは【お客様の悩みを聞き出す】という事です。どのようにしたらニーズを聞き出せるのかを考えるのでなく、お客様から見て、Aさんになら自分の悩みを打ち明けてもいいかなと思われるような信頼関係構築をまずは目指すべきです。もっと言うなら、その方が効率的です。まして、Aさんはお客様から見ればあくまで営業職であり、自分の悩みを聞いてくれその苦しみを分かち合う友達ではありません。悩みを同じ目線で共有してくれないばかりか、ビジネスチャンスにしか見えない。勿論、打ち明けただけで、お客様の役に立てない可能性だって高い。お客様もそれを十分分かっているはずですよね。そのくらい立場に隔たりがあるからこそお客様のニーズを聞き出すのが難しいのは当然ですし、だからこそ、お客様と仲良くなり信頼されることが真っ先に必要ですよね。」

 

 

予め言っておきたいが、私はニーズを掴むこと自体を否定している訳ではない。契約の為に必ず必要なプロセスの一つであると思う。しかし、これを把握すれば契約に至るというのは誇張であり、ミスリードであると思う。
私自身、全ての営業職の持論やブログなどの発信をチェックした訳ではないが、少なくともこれらを目にした営業職に勘違いが多く見られるのは事実である。

 

ニーズの把握が難しい理由

どこに勘違いがあると私が思っているかというと、

【ニーズを聞き出す(ニーズの把握)⇒ニーズを満たす⇒契約獲得】という図式を何となく描き、それ故ニーズを聞き出しさえすれば契約が獲得できる、だからどうやってニーズを聞き出せばいいのかという事しか考えていないということである。
更に言うなら、ニーズの聞き出しが上手くいかないのは聞き方が悪いからだ、聞き出す有効なテクニックはないものかと思っている営業職も多い。しかし、これも誤りである。お客様のニーズがなかなか聞き出せないのは、ほとんどの場合、聞き方の問題ではなく、信頼関係が醸成されていない、ただそれだけの理由である。原因を取り違えて悩んでいるのではないだろうか。

 

見落とされている点①ニーズは誰にでも打ち明けるモノではない

だから、私はこの図式だけを漠然と描いていても契約が獲得できないのは当然だと思う。
何故なら、この図式には見落とされていることが最低二つあるからである。
① まず、繰り返しになるが、営業職がお客様からニーズを聞き出すのは、お客様から見れば深刻さの違いはあっても悩みを打ち明けることである。これはAさん自身も答えているように誰にでも打ち明けるモノではない。これはプライベートにおいて、自身の悩みを誰にでも打ち明ける訳ではないのと本質的には変わらない。また、もし誰にでも打ち明けることが出来るお客様であれば、これも当たり前であるが、ライバル会社の営業職にも伝えられているニーズだろう。こういう展開になると、いかに早くより好条件でその要望を満たすのかという戦いになり、ニーズを把握することが即契約に近付くという展開には尚更なり得ない

 

 

(だからこそ、目指すべき理想の展開はお客様のニーズをただ聞き出すことでなく、出来るだけライバル会社の営業職には漏らされていないニーズを聞き出す事、潜在的ニーズを引き出す事にすべきではないだろうか。

 

 

これにも二つのやり方がある。
まずは単純にお客様にライバル会社の営業職よりも信頼され、仲良くなることである。私が「営業活動=お客様との人間関係・信頼関係の構築である」と断言しているのは、全ての営業のタスクの成否はここから始まり、ここで完結してしまうからである。
もう一つのやり方は、解決方法が豊富で、解決能力が高いとお客様に評価されることである。しかし、残念ながら解決能力に各社それほど大きな違いはない。だからこそ、他社にはないサービスを目指すというのは間違ってはいないが、必ず一長一短がある。
それ故に一つ目の人間関係構築がほとんどの場合、他社を出し抜いてニーズを聞き出すことが出来るのかの最大のカギになると思う。)

つまり、ニーズを聞き出し掴む前に
お客様の信頼を得る⇒ニーズを聞き出す(ニーズの把握)
というステップが抜け落ちているために、ニーズを引き出すというタスクが上手くいかないという現象であると推測される。

 

見落とされている点②ニーズを把握できても、それを満たせるとは限らない

そして、この図式で見落とされている点の二つ目が、ここである。
② 【ニーズを聞き出す(ニーズの把握)⇒ニーズを満たす】
これも少し考えれば分かる事だと思うが、ニーズを把握しても自社でその要望を満たすことが出来ない場合もあり、また自分がお客様の潜在的ニーズ(お客様自身も気付いていないニーズ)を引き出したり、未来を見据えた提案を行い新たなニーズを掘り起こしても、お客様がその新たに発生したニーズを他社にもぶつけ、他社が自社以上にその要求を満たしてしまうこともある。

 

 

例題で考えてみよう

こんな例で考えてみて欲しい。
あなた:防犯グッズメーカーの営業職
お客様:コンビニのオーナー
ニーズ:万引き防止の抑止力向上(現在使用している防犯カメラは古く、画質は不鮮明)
予算:50万円

あなたは迷わず、現在使用している古い防犯カメラから自社の高性能の防犯カメラへの交換を提案するはずである。
(参考までに言っておくと、最近では、ニーズとウォンツと分ける論説もある。ニーズは目的、ウォンツは手段である。
この場合は万引き防止の抑止力向上がニーズ、ウォンツは高性能の防犯カメラへの買い替えである。
こうした考え方があるというのはどこか頭の隅に置いておくのはいいのかもしれないが、営業活動において特段必要不可欠な区分けだという立場を私は取っていない。)

この時点でお気づきの方がいると思うが、自社の高性能のカメラの画質がオーナーが納得するレベルにない場合(自社でお客様のニーズを満たすことが出来ない場合)、もしくはあっても予算が50万などでは到底難しいという場合は十分有り得る話である。こうした場合、多くの営業職は「お求めになるほど鮮明な画質は難しいですが、この程度なら見えます」もしくは「50万では厳しいですが、70万を捻出して頂ければ可能です。」とお客様に条件の譲歩や緩和、妥協を持ち掛けるはずである。
或いは、「他のコンビニのオーナーさんはこの程度の画質で大変満足されています」、「現在のほとんどのコンビニではこの画質で録画しています」などの情報提供により妥協を引き出す努力をするはずである。当然ながら、この程度の事はライバル会社も同様に行うので、ニーズは当然顕在化、または変化していく。(お客様自身もあらゆる営業職の提案や情報収集を進めていくうちに、自身の考えやニーズに気付かされ、結果として当初漠然としたニーズが露わになったり、新たに生まれたりすることは当然起こり得る事である。)

 

 

お客様のニーズは刻一刻と変化する

つまり、【ニーズを引き出せば営業活動の大半は終わり】というのは「必ずニーズを自社で満たすことが出来ること」「より良い解決方法を持っている他社が現れないこと」「ライバル企業の提案やお客様の心変わりによるニーズの変化が起きないこと」を前提にしている。

残念ながらこんな事はほぼあり得ない。つまり、この「ニーズを引き出せば営業活動の大半は終わり」というのは机上の空論に過ぎない。もし、ライバル会社が『万引きされた商品が何かが分かるくらいの高性能のカメラを提案します』と持ち掛けてきたら、真っ先に防犯カメラの一新というニーズを引き出したのが自分であっても、流れは簡単にライバル会社に行くはずである。この話は特殊なケースでも何でもなく、どの業界でどんな製品やサービスを取扱おうが必ず起こり得るケースである。
更に言うなら、何とかお客様のニーズを満たすことが出来たと思った瞬間、自分も挑戦したのと同様にライバル会社の営業職がお客様のニーズを変えることに成功し、そのライバル会社の営業職が一気に優位に立つなんてこともよくある。
営業の現場では刻一刻と状況は変化し、お客様のニーズもまた変化するのだ。一度引き出したニーズが最初から徹頭徹尾変わらないとは限らない。
こんなことは営業職なら誰でも経験していることであり、何も極端な例ではない。

恐らく多くの営業職は、不利と見れば『現実にはこうしたリスクもある』というお客様が着目していないニーズの掘り起こしなどを行い、自社に有利な状況を何とか作り上げようと努力するだろう。
そしてここで、お客様があなたの話に耳を傾けるか否かのカギを握っているのは、お客様が普段のあなたにどんな評価をし、いかなる心象を抱いているかという事である。

お客様が具体的な要望を出しているなら、それが自社で出来ないからといって違う局面を作り出そうとしているのは本来なら自分勝手な話である。一歩間違えれば、「客である私が出した条件を変えて、自社に有利な展開に持ち込もうとしているだけだ」と思われるリスクすらある危険な行為である。それとも「営業職とはお客様の為に何が出来るかである」という持論を持っている方は、こうしたケースではあっさりとその要望に近い他社に譲るのであろうか。
私はそんな営業職はプロフェッショナルではないと思う。もっと言うなら、所属する企業の利益を守ろうと努力しない営業職など、お客様は信頼しないのではないだろうか。むしろ、客である自分たちよりも自社の利益を守ろうと努力している人間の方がビジネスパーソンとして信頼に値する人間であるはずである。何故ならお客様も含めて、基本的には自社の利益を追求することにベストを尽くしているからである。

 

まとめ

まとめよう。
ニーズを聞き出す(ニーズの把握)⇒ニーズを満たす⇒契約ではなく、
お客様の信頼を得る⇒ニーズを聞き出す(ニーズの把握)である。
この事抜きに、ニーズを聞き出す事を目標として考えるから、契約に至らないのではないだろうか?
何故なら、そのステップ無くして、お客様が営業職に悩みであるニーズを打ち明けることなど期待できないからである。
そして、ニーズを聞き出し把握してからも、お客様に譲歩を迫る局面は必ず何度も出てくる。
ニーズさえ把握すれば契約になるのは、他社に比べて圧倒的な問題解決能力があり、他社の存在を気にする必要のない特殊なケースである。
果たして、このような企業がどれくらいあるのかと言うと、全体として見れば限りなくゼロに近いだろう。
そして、この譲歩を迫る時にも、有利になるのか不利になるのかのカギを握っているのが、お客様との人間関係、お客様がその営業職に普段から抱いている心象であるということも忘れてはならない。

ここまで読んだ方は分かって頂けたと思うが、こうした事抜きに、『ニーズを聞き出せ』、『ニーズを引き出せ』、『潜在的ニーズを掘り起こせ』、『それさえ出来れば営業活動のほぼ全ては終わり』と語られている論説が存在するとしたら、それは相当事実とかけ離れている机上の空論だと私は思う。
事実そう思ってとにかくニーズの聞き出し・引き出しに奔走し、結果が出ない理由が分からない営業職は多い。
【営業における全てのタスクはお客様との人間関係で決まる】と私が主張するのは、ライバル会社の動向やお客様の状況や要望という、営業職側でコントロールできない変数に翻弄されるのが営業職の宿命である以上、契約締結の唯一にして最強の手段が他のどの営業職よりも強く深いお客様との信頼関係の構築だからである。

 

 

ニーズの把握は重要な一つの通過点であり、ゴールでも目標でもない

それに比べれば、ニーズの把握や引き出しは所詮契約の為の一つの通過点に過ぎない。まして、『お客様のためになること』は必死に営業活動を展開した後に自然と発生するモノである。いずれも目的に設定するモノではないと私は考えている。
いずれに契約獲得の為にお客様との人間関係を構築し、お互いの立場の違いを明確にし、それを埋め、契約に徐々に近づいていく中、そして契約締結後に自然と生まれるモノであると思う。

これらが「ニーズの把握=契約獲得にならない理由である」