以前目の疲れを感じることがあり、色々と調べてみると、コンタクトを左右逆につけている可能性があることが分かった。確かに、顧客とお酒を長時間飲み少し酔いが回って帰ってくることも多く、そんな時レンズケースの向きを逆にしたままケースに入れている可能性もないとは言えない。
私は購入したコンタクトレンズ店に電話したところ、スタッフAさんは「こちらでは分かりませんので、眼科さんに行ってみてください」とアドバイスしてくれた。私は「分かりました」と諦めたが、その数日後に別の用事で近くまで来たので寄ってみた。
すると、私が購入した時に親切に対応してくれたスタッフBさんがいたので、再度同じ相談をしてみると「近くに眼科さんがあるので、10分ほど待っていただければ眼科さんに見てもらってきますよ」とのことだった。つまり、眼科さんに私が行くのでなく、そのスタッフBさんが眼科さんに持って行って度数を見てきてくれるとのことだった。同じ店なのに一致しているのは「このお店では分からない、眼科に行かないと分からない」という点で、そこから先は真逆の対応と言っていいだろう。因みにこのスタッフBさんは私が購入していたことをきちんと憶えていて、視力に左右差があることも憶えていた。
さて、この話を聞いてあなたはどう考えますか?確かにお店である以上、対応がスタッフによってバラつきがあるのは本来おかしい。そして最初に対応してくれたスタッフAさんはただ事実を述べているだけであり悪い対応とは言い切れないし、スタッフBさんはお金を生まない仕事に時間をかけてしまっているという点では会社としてはNGなのかもしれない。
私がこの話を取り上げたのはこうした「スタッフはどこまでマニュアルや決めごと・ルールを守るべきなのか」いうことは企業の根幹に関わる重大な問題だからだ。同じ会社のスタッフである以上、ある程度接客や対応が均一化していないのはやはりおかしい。マニュアル通り対応しておくのが無難ともいえる。恐らくスタッフAさんの対応がマニュアル通りであり、Bさんが融通を利かせた対応をしたのだろう。(事実は分からないし、そんな対応はマニュアルやルールにないのかもしれないが、その前提で話を進めていく。少なくともAさんの対応が会社のスタンスから外れていないからこそBさんはAさんの対応に関して私に謝罪しなかったと思われる)
しかし、本当にマニュアル通りの対応だけでいいなら店舗にスタッフを置く必要などないのではないかとも思う。つまり私は時にはマニュアルを逸脱することができるスタッフこそ組織は大事にするべきだという立場だ。何故ならマニュアルの目的はお客様の信頼を得て購買につなげることに他ならないからだ。だが、お客様とて考え方も価値観もバラバラであり、全員を同じマニュアルの接客で満足させることなどできない。そして、忘れてはならないのはスタッフに融通が利く・利かない、お客様に好かれやすい・好かれにくいという個人差があるということだ。本来は会社の利益を損なわない程度にお客様によって柔軟に対応し、お客様から信頼を得て売上アップに繋げて欲しいというのが会社の本音だが、そんなスタッフが揃うことはほとんどない。つまり、マニュアルは二重の意味で妥協の産物なのだ。一つはどんな客も満足させるようなマニュアルなど無い、そしてスタッフ全員が時には柔軟な対応をしてお客様の信頼を勝ち取って欲しいが難しいので仕方ないという意味での二重の妥協の産物ということだ。そう考えれば、会社の利益を損なうことなくマニュアルから逸脱してもよりお客様の信頼を得られるスタッフはどんどん逸脱してよい、自信がないならマニュアルを遂行しながら学んでくださいというのが正しいスタンスのはずだ。しかし、組織の現場で何が起こっているのかと言うとどんなこともマニュアルを守れという本末転倒なスタンスだ。マニュアルさえ守っていればトラブルが起きても会社は許してくれるという風潮もある。現在、かつてと違いコンプライアンス遵守は企業の責任において必要なことであるのはこうしたことと勿論無縁ではない。しかし、こうしたことは本来の目的を見失ってしまって非合理的であるだけでなく、寂しすぎる話であると思うのは私だけだろうか。
話をもう一度戻す。マニュアル通りの対応が必ずしも悪い対応とは確かに言い切れない。しかしながら、そんな対応でいいならメールだけの定型文対応で十分可能だと思うし、事実そうした会社がここ最近多いのも事実だ。電話でのカスタマーサポートも無くしてしまった会社だって多いし、ほとんどのトラブルが検索してしまえば中身が分かってしまう現在至極真っ当な感覚と言える。そのように考えると、もし店舗で顔を合わせる必要があるとしたら、そのお客様の空気やテンションを感じ、その五感から感じたことを活かして柔軟に対応できること以外にないのではないか。私が顧客の立場ならそう思う。現実的に、そこに行かないと買えないものはずいぶん減った。それはサービスを供給している側が合理化でそうしただけではない。消費者がそれを望んでいるから、企業側がそれに対応しただけという側面もある。でも、やっぱりこれはネットではなく実店舗に行って直接話を聞いて購入を決めたいというモノもまだ残っている。そこで重要なのはマニュアル通り接客をするだけでなく、その客に合わせたカスタマイズだ。繰り返しになるが、マニュアルはどんな顧客にも大きく外れないように設計してあるだけで、最適解は常に別にある。私の持論である「無難と最適は逆ほどに違う」というのはそういうことだ。営業もそう。営業職らしい佇まいと話し方を作りこんでいくというのは無難であり、まずはそこを目指すのは悪くない。でも、無難が最適とは限らないということに気付いている営業職と、無難に仕事をこなし続ける営業ではかなり違う。
そして、営業という仕事が一番飛躍的に面白く感じてくるのはそれが少し見えてきた頃かもしれない。
サトミ営業相談所は敢えて言う、「勇気を持って無難とマニュアルに決別しよう!その少し先に仕事の本当の面白さが潜んでいる」と。