目から鱗のハウツー営業【水と油が溶け合った話】

「なんで、アイツがY社を攻略できたんだろう?」

 

どの営業職も攻略できなかったY社を同僚が見事に攻略した時、
こんな風に不思議に思ったことはありませんか?

 

攻略した営業職があなたから見て平凡な営業職ならば、
不思議さも倍増ですよね?

しかし、営業の世界ではこうした不思議な出来事が次々と起きます。
 

 

今回はこれと類似した私の体験談を紹介します。
そして、営業の世界で起きるこうした不思議な奇跡が何故生まれ、
そしてどのように起きているのかを解き明かしたいと思います。

 

 

 

 

 

物語:山本さんが起こした奇跡

 

 

私が社会人2年目の頃の話です。

 

営業職としても2年目で、当時は出版社で求人広告の営業をしていました。

少しずつ、求人広告の説明やお客様との受け答えにも慣れ、
また営業という仕事にも慣れてきた頃です。
契約も順調に獲得出来ていたこともあり、
余裕が出始めた時期でもありました。
 

そんな充実した日々を送っていた私をそれまでにない衝撃が襲いました。
 

 

先輩である山本さん(偽名)がある外資系保険会社K社を新規で攻略し、
求人広告の契約を獲得したのです。

 

私を衝撃が襲ったのは、失礼ながら営業職としては平凡そのものである山本さんが難敵中の難敵K社を攻略したからです。
 

 

山本さんは優しくて人柄のいい先輩で仲も良かったのですが、
話が上手い訳でもなく、キャラが濃い個性派でもありません。
営業職としての能力は平凡そのもので、営業成績も可もなく不可もなし。
 
 

 

その上、K社窓口の坂井所長(偽名)は外資系保険会社のエリートです。

 

外資系保険会社という完全歩合制の厳しい競争社会をのし上がり、
30代前半で営業所長にまでなった超がつくやり手の営業マンでもあります。
 

 

「やり手の営業職ほど商談相手として手強い相手はいない」
こんな通説を絵に描いたような人です。

 

 

坂井所長が
「ウチは求人の需要は常にあるよ」と堂々と主張ているにも関わらず、
今までウチのどの営業職が挑戦しても、まるで契約が近づきませんでした。
 

 

さて、ここまで読んで皆さんはどのようなことを感じましたか?
私が衝撃を受けた理由を何となくお分かりいただけたでしょうか?

 

 

 

 

私が衝撃を受けた理由

 

 

整理します。

 

私が衝撃を覚えた理由はまず、
1⃣難攻不落のK社を山本さんという平凡な営業職が攻略したこと。
2⃣その相手が高い能力・合理性を結集した外資系保険会社であり、
その窓口が坂井所長というずば抜けた切れ者であること。
3⃣坂井所長を攻略するには、

 

彼と同等かそれ以上の営業スキルが必要だと思われていたのにも関わらず、実際にその牙城を崩したのが平凡な営業職山本さんだったこと。
以上、3点です。

 

 

 

 

山本さん自身の驚くべき見解

 

 

その時は山本さんに
「どうやって攻略したんですか?」と何度も聞きましたが、
山本さんは
「いや普通や。特別なことは何もしていない。
いつも通り、やっていただけやぞ。」としか答えてくれません。

疑問が解消されないまま時間だけが経ちました。

 

 

 

 

チャンス到来と更なる衝撃

 

 

その数か月後、
何故かK社の営業担当が山本さんから私に引き継がれることになりました。

 

 

私は山本さんから引き継いだ後も、順調に求人広告を獲得しましたが、
定期的に顔を出していれば、次々と広告を出してくれました。

 

要するに、山本さんの遺産を苦も無く受け継いだだけでした。
 

 

ただ、私は実際に担当してみて、更に驚くことになります。

 

まず坂井所長は評判通り、いやそれ以上の切れ者です。
私の話に少しでも矛盾や論理的におかしいことがあると、
聞き逃すことはありません。

 

 

「いや、そんなことはないんじゃない?だってさ・・・」
とすぐさま論理的に反論できる、そんな頭脳の持ち主でした。
非常に博識で、営業職として歴戦の猛者だと常日頃感じていました。
 

 

想像以上に、商談相手としては手強い相手だと実感しました。

 

外資系保険会社の完全歩合制という厳しい競争社会を勝ち抜いてきたやり手の営業職とは、これほどレベルが高いのかと舌を巻きました。
「山本さんはどうやってこの男を口説いたのだろう?」
不思議で仕方ありませんでした。
 

しかし、それ以上に驚いたのはやはり引き継ぎの時です。
 

 

そんな坂井所長と山本さんが信じられないほど打ち解けていたのです。

 

坂井所長は、
山本さんが担当を外れることを心底寂しそうにしていたのです。
繰り返しますが、山本さんは非常に凡庸な営業職です。
坂井所長と山本さんは正反対のタイプ、正反対の営業職同士です。
 

 

山本さんはとても坂井所長の厳しい反論に応酬できる人でもなければ、
坂井所長が納得できるような提案やプランを用意できる人でもありません。
「山本さん、何をどんな風にやったのだろう?」
何度考えても想像すらできませんでした。
 

 

 

 

坂井所長の驚きべき回答とそれで気付いた事

 

 

そこで、私は打合せの時に、坂井所長に思い切って聞きました。

 

「ところで、どうして山本が担当だった時に契約をしてくれたんですか?
今までウチのどの営業職が担当しても、
まるで話にならなかったと聞いていました。

 

山本が担当している時に偶然タイミングが合ったのかなとも思いましたが、
御社であれば他の求人広告誌からも営業マンが来ているはずです。

 

にも関わらず、他社ではなく、
ウチに掲載いただいたとするとやはり山本が理由ではないかと思いました。
でも、坂井所長と山本の組み合わせがどうにも腑に落ちなくて・・・」
 

 

すると、坂井所長はこう答えました。

 

「勿論山本さんだよ。
僕は山本さんが好きなんだ。
だって彼はいつもニコニコしているだろう?
ウチの事務所にニコニコしながら入ってきて、
話をしている時もいつもニコニコしているんだ。
ミスをしてもニコニコしながら謝るしね。
僕はああいう人が好きなんだ。」

 

 

私はそのあまりに素朴な理由に非常に驚きました。
切れ者でやり手の坂井所長が挙げた契約の理由が、
あまりに普通過ぎる内容だったことに驚いたのです。

 

 

そして、やっと気付いたのです。
私を含めた歴代の担当者たち、
「何故山本さんがK社を攻略できたんだろう?」と疑問を持った人たち、
我々を縛っていたのは自身の思い込みであることに気付いたのです。
 

 

それは相手が外資系保険会社の所長であり、
合理的な考え方をする切れ者であるに違いない、という思い込み、
そして、
それ故他のお客様に展開しているような雑談や定期訪問を重ねて仲良くなっていくような普通の営業活動では契約は難しいという思い込み、
当然攻略には高いセールストークの技術と完成度の高い提案が必要であるという思い込み、
歴代担当者が攻略の糸口すら見出せなかった事実はそのことを裏付けており、それまで以上に高いスキルを持つ営業職が必要不可欠だという思い込み。
 

 

しかし、坂井所長が契約の理由として挙げたのは
腑に落ちる説明や納得できる提案内容ではなく、
いつもニコニコしている山本さんに好感を抱いたこと、でした。

 

山本さんの見解である、
「いや普通や。特別なことは何もしていない。
いつも通り、やっていただけやぞ。」というのは本当だったのです。
 
 

 

 

 

 

この話が教えてくれること

 

 

この話の教訓は
我々営業職はあらゆる根拠なき思い込みからスタートしているということです。

 

 

お客様の会社の名前・規模・知名度、
お客様担当者の役職・キャリア・着ているスーツ・話し方・社内での評判、
こうしたモノから本人に確認した訳でもないのに、
勝手に
「こういう人だろう」
「こういう攻め方が必要だろう」
「こういうのは嫌われるだろう」
「こんなことをやっても無意味だろう」
と決めつけてはいないでしょうか?
 

 

しかし、
こうしたことは効率的にやるべきことを絞り込むのに便利である反面、
本来必要でないことを実践し、
必要であることを遠ざけてしまうリスクと隣り合わせです。
 

 

一方で、坂井所長が挙げた契約の理由は実に正直で自然なモノであり、
むしろそれに私が驚いた事の方が愚かで不自然なことです。

 

 

どんなに優秀な人間であろうが、
どんなに合理的でドライな判断力を持ったビジネスパーソンだろうが、
美しい景色を見れば感動し、
頑張っている人間を見れば応援したくなり、
自分好みの人間をどうしてもえこひいきしてしまう、
そうした人間らしい部分を持ち合わせているのです。
 

 

考えてみれば簡単に気付ける当たり前の事ですが、
それに自力で気付ける人は恐らく少数でしょう。
それほど我々の思い込みは強烈であり、
思い込みは我々にとって、最大にして最悪の脅威なのです。

 
そして、
【営業の世界で起きるこうした不思議な奇跡が何故生まれ、
そしてどのように起きているのか?】、
この問いの解もまさにここにあるのです。
 

 

本来、水と油は溶け合わないのですが、
営業の世界では山本さんと坂井所長がそうであったように、
まるで性格や性質の異なる両者が親しくなるケースはよくあります。
それは両者が感情を持っている人間だから起きるのです。

 

それがあなたに起きていないとしたら、
あなた自身がそれを諦めているからに他なりません。
 

 

そう考えれば、
奇跡が起きたようにしか見えない現象の多くは必然なのです。
奇跡など起きていないのです。
こうした場合の多くは、我々の思い込みによって必然が奇跡に見えているだけなのではないでしょうか?
そして、他人から奇跡に見えることを実現する側に回りたいのなら、
その思い込みを捨てることから始めるべきなのではないでしょうか?
 
 
まずは根拠なき思い込みは捨てましょう。
そして、目の前のお客様を見つめましょう。
自身が感じた事を大事にしましょう。
自身が必要だと思ったことを実行しましょう。
それが営業活動の本当のスタートです。
 
山本さんはそのことをはっきりと教えてくれている、
そうは思いませんか?