先日、ある若手営業マンUさんからこうした相談を受けた。
U「Kという顧客を攻略したいのですが、なかなか突破口がなくて相談に乗ってもらっていいですか?」
以下、実際に交わされた会話である。
私「難しいならKは諦めて他の顧客を攻略してはいかがですか?わざわざ難しいことをする必要はないでしょう」
U「うちの部長がKの攻略にこだわっているんで、そうもいかないんですよ」
私「分かりました。どんな風に突破口がないんですか?」
U「KのA社長が全権を握っているんですが、A社長がうちのライバル会社のNの担当者と関係が良くて注文もNばかり。
私が何回訪問しても会話すらしてくれないんです」
私「分かりました。まずは社長を攻略することを諦めましょう。」
U「いやいや、そんなことをしたら状況は悪化する一方じゃないですか?」
私「社長が全権を握っている顧客なのに、その社長に無視されているわけですから、それ以上悪化しないでしょう」
さて、ここまでの流れを読んだ方はどう思われただろうか?
まず強調しておきたいのは営業マンの意見や状況を度外視で、攻略先を設定するのは合理的とは言えない。
何故なら、一人の営業マンの時間や能力には限りがあるからだ。
本当に攻略が不可能だとしたら時間もコストも無駄であり、他の顧客への攻略のチャンスやタイミングを失うリスクすらある。
また、営業マンが攻略を難しいと認識しながら営業活動を続行すれば、攻略が目的ではなく訪問あるいは訪問したという報告が目的化する可能性もある。
これは営業において最も無駄な行動の一つだが、こうしたことは営業の現場では頻繁に起こるし、
営業マン自身のモチベーションを徹底的に奪うので、営業という仕事を愛している私としては絶対にやめてもらいたい。
前置きが長くなってしまったが、私が何故社長の攻略を諦めるべきだと言ったかというと、
社長を攻略すべき⇒無理⇒惰性でとりあえず社長あての訪問を繰り返す⇒どんどん行くこと自体が嫌になる
というUさんの行動の負のスパイラルを止めるためだ。(つまり止血しただけだ)
私はその下の専務⇒部長⇒課長という風にどんどん訪問相手を変えてみることを提案した。
これによって、Uさんの行動と意識はこれまでよりはメリハリが出るはずだ。
そして、その上で更に付け加えておきたいポイントは「あなたの顧客は一枚岩ではない」ということだ。
営業マンが犯しやすいミスとして、キーマンとの関係を重視するあまり「キーマンの意思=その会社の意思」と勘違いすることだ。
このようなことはほぼない。
自分の会社で考えてみればすぐに分かるだろう。
中規模の会社だろうが、家族だけで経営しているような会社だろうが、意見が完全に統一化されていることなどありえない。
統一化されているように見えるのは、ほとんどあなたと顧客の人間関係が深まっていないからだと思ってまず間違いない。
少なくとも人間関係さえ深まってくれば、なぜあなたの会社と契約ができないか、くらいは教えてくれるはずだ。
また、この場合のライバル会社NもKと関係が深ければ深いほど、不満を持っているKの社員も必ずいるはずだと思うべきだ。
それを社長だけではなく、色んなKの社員と関係を深め、徐々にその状況・情報を掴んでいく。
すると、社長への訪問を繰り返していた頃とは全く違う風景が見えてくるかもしれない。
営業活動に終わりはない。
だからこそ、自分の活動が負のスパイラルに入っている時は打開する起死回生の策を考えるのではなく
負のスパイラルをとりあえず止める簡単な一手を打つ。
この例でいえば、社長の攻略を諦める、その程度でいい。
その上で、「この顧客は一枚岩ではない」ということを自分に言い聞かせてみて
もう一度その会社を眺めてみよう。
私はこれまで攻略不可能だと言われた顧客を短い時間で次々と攻略してきた。
だが、同僚にどうやって攻略したかを聞かれて答えても
驚かれることは一割くらいのもので、「なんだ、そんなことか」と言われることがほとんどだった。
結果は派手でも、それを実現させるのは地道で当たり前のことを積み上げた結果であるということだ。
だから、自分の営業力に自信のないあなたにもきっと出来るはずだ。
そのお手伝いをするのが、私の使命だ。