ある営業マンから相談を受けていた。仮にFさんとしよう。彼はルートセールスの営業マンで、ある悩みと向き合っていた。それは訪問スケジュールの作り方だ。
彼はこのように言っていた。
「得意先のA社とB社の場所が近くて、出来れば毎週同じ日に訪問してしまいたいのですが、両社とも夕方5時から6時にしか話を聞いてくれないんですよ。今はA社に5時から5時半まで、B社に5時40分から6時までと訪問しているのですが、非効率を承知で別の曜日にそれぞれ1時間滞在する方がいいですかね?」
私は「結論から言うと、どちらも良くないですね」と答えた。
私がFさんに欠けていると感じたのは、「顧客から見た自分」という視点と「何のために訪問するのか」という目的の設定である。
相対的に、そして客観的に考えてみよう。
A社やB社からFさんはどう見えているのだろうか。そんな時は、例えばライバル企業の営業マンがどのように訪問しているかを調べるのも一つのやり方かもしれない。大事なことは「顧客から自分はどのように見えているかを常に意識して、自分の行動を決めていく」ということだ。残念ながら、Fさんの訪問の考え方にはそれが欠落している。
次に、「何のために訪問するのか」だ。
ここを勘違いしてしまっている営業マンが多いのだが、顧客の事務所に訪問すること自体は目的ではない。「顧客と良好な人間関係を構築し、自社の商品やサービスを知ってもらい購買につなげる」のが目的であり、訪問はそのための一つの手段に過ぎない。しかしFさんの話を聞いていると、訪問すること自体が目的化してはいないだろうか。自分の行動について迷ったら「その行動の目的は何か」をもう一度冷静に考えてみるといいだろう。逆に言えば、目的を達成することが出来れば、毎週夕方に訪問する必要もないし、訪問して5分で帰ってもいいわけだ。そうした発想がないから、均等に少しの時間づつ訪問するという形になってしまったのではないだろうか。
さて、ここまで何故この例え話を引用したかを理解して頂きたい。
何故なら、今回のテーマである訪問頻度について語る時に前提としてこの二つ「顧客から見た自分」と「何のために訪問するのか」が理解されていないと伝わりにくいからだ。
現実には、定期訪問は週1回と思い込んでいる営業マンは多い。
例えば、私がメーカー営業をしていた頃の話だ。私が勤務していた営業所でかつては1,2位を争う得意先だったがここ数年で売上が激減した顧客Zがあった。私は自らこのZの新担当になりたいと上司に申し出て許可された。前任の先輩営業マンはセオリー通り毎週1回の定期訪問を繰り返していた。私はZの内勤の方に「出入りしている全ての営業マンで一番よく来るのはどこのメーカーで、どれくらいの頻度で来ていますか?」と聞いたところ、「Pですね。毎朝来ています。」と答えが返ってきた。私はそれを聞いて以来、週1回訪問から毎日朝・夕2回づつ(週10回)通い始めた。すると、「川端さん、最近めちゃめちゃ来るね。なんで?」とよく聞かれるようになった。私は「Pさんが一番訪問頻度が高くて毎朝来ると聞いたので、それを上回るためには最低一日2回は必要でしょう。」と決まって答えていた。言うまでもないことだが、この行動も週10回訪問することが目的なのではなく、あくまで圧倒的訪問頻度を誇る営業マンとの評価を獲得し、人間関係において他メーカーを一気にごぼう抜きし売上を拡大することが目的であり、事実1年でそれは達成された。
このように訪問頻度が毎週1回は単なる目安であり、そんなものは自己満足にすぎない。「顧客との良好な人間関係を構築し、自社の商品やサービスを知ってもらい購買につなげる」という目的を叶えられれば訪問頻度にこだわる理由も必要もないはずだ。(もし、月1回顧客のキーマンとお酒を飲みながら、キーマンの愚痴を聞くことが最大の効果が得られるのならそれがベストの営業活動であり、毎週1回の訪問なんて全く必要ないということだ。)
繰り返す、定期訪問は週1回なんて誰が決めた?
目的を達成するために手段がある。
目的を見失ってしまった行動など意味がない。
どんな目的のために取る行動なのか、その意味を理解して、自らの意思で取り組んでこそその行動は最大の効果を出し、失敗した時の学びも大きくなる。
それを常識が邪魔をするなら、そんな常識は捨てた方がいい。