少し前に顧客であるW社の窓口であり、営業責任者のI課長から電話があった。因みにI課長は2か月前から私が同行営業を実施している若手営業マンMさんの上司でもある。「M、最近明らかに変わってきたんですよ。なんというかやる気が凄いというか、前向きになってきたというか・・・川端さんと同行するようになってから、まるで違うとみんな噂しています。私も参考にしたいんで、どんな指導をMにしたか教えてもらえませんか?」と言われた。
こうした言葉は率直に言って嬉しいし、私の同行営業ではほとんどの場合でこのように企業側から評価される。しかし、と同時に、その企業の人材育成はそれまで上手くいってなかったとも言える。人を育てるとはどういうことなのか?どんなことが必要なのか?これだけテクノロジーが進化した今も、「企業は人なり」の原則はまだ変わっていない。企業もその悩みから解き放たれてなどいないのだ。
結論から言おう。変な言い方かもしれないが、根本的に人材育成は上司や先輩などの他人がやるものではないと私は考えている。では誰がやるのかと言うと、本人である。人材は組織全体で育てるモノだ、経験豊かな上司が指導すべきだと決めつけて、自分のことは自分でやるという当たり前のことを会社や組織は理解していない。では指導とは何か。自分以外のそれなりに知識や経験を持った人がその人と異なる視点でアドバイスをする、ただそれだけであり、参考意見を得るというだけだ。(確かに指導者の知見が確かなモノなら、部下が抱える悩みの解決策がすぐに出てしまうかもしれないが、自分で時間をかけて解決に辿り着く方がはるかに成長するだろう。)
例えば、営業マンならその会社やお店の商材を売るというのがミッションだ。会社はその結果に対して、評価をすればいいだけだ。やり方が悪い、そのPRの仕方がダメだ、と言うだけなら指導というよりただのダメ出しではないだろうか。そうではなく、部下の様子をじっと見つめ、気付いたことや自分の意見を述べるだけで十分だと私は思う。「こうしろ。ああしろ」と強制するのが指導だと勘違いしている上司もよく見られるが、部下が納得して「そうだ、部長の言う通りだ。直します」となる場合はほとんどなく、口では「分かりました」と言うが、それはその場を取り繕っているだけであり、時間が経てば元に戻るのは当然だろう。それよりは、上司は自分の意見を述べるにとどめ、最終的には部下にその後の行動を自らの意思で決めてもらう方が余程いいだろう。
勘違いしている上司が本当に多いのだが、そもそもやる気がなさそうに見える部下も元々はほとんど例外なく「出来ることなら仕事で結果を出して、会社に評価されたい」と思っているということだ。そのやる気を上司の主観で固まった目で「やる気がない」と勝手に決めつけられ、そのやり方まで否定されて、元々あったやる気が削がれているだけだ。「今の若い人は仕事に情熱が無い!」と言う中高年も多く見られるが、誰かに必要とされ、評価されたいという願望は年齢・世代関係なく皆持っている。もしやる気がなさそうに見える若者がいたら、その若者がやる気が無いのでなく、自分たち大人や組織が彼ら・彼女らからやる気を奪っていると思ってほぼ間違いないと私は思う。そうでなければ、私が同行営業をし2か月や3か月で多くの営業マンのやる気が劇的に変わることなど説明がつかない。
(私が社員の不振の原因の99%は組織・会社側にあるといつも言うのはそういうことだ。だからこそ、不振に苦しむ社員に変化を求めるのでなく、組織側に変化を求めているのだ。)
では、私が依頼された社員の育成にどのように取り組んでいるのか。私は特別これをやろうということはなく、これだけはやってはならないことだけを決めている。それはその社員の邪魔をし、モチベーションを奪うということだ。本人がこうしたいということは決して否定しない。自由にやってもらい、私がその時思ったことを何故そう思ったのかを理由をつけて話し、意見を交換する。これだけだ。何故なら、人に言われたことで成功するより、或いは失敗するより、自分の意志でやると決めたことの方が成功すればより嬉しいし、失敗しても素直にそれを受け入れることが出来るからだ。失敗した時に素直に受け入れることが出来れば、そこで得るものもまた大きい。
だが、ビジネスの現場で何が起きているかと言うと、成功した時は評価されるが、成果が出ていない時はその結果だけでなく、人格まで否定するような言動を平気で上司がとっている。ミスに対しての叱責も多い。これも悪手と言って間違いないだろう。これではミスをしないことにインセンティブを与えてしまう。怒鳴ったり怒ったりもそうだ。(或いは、パワハラを恐れてか、何の否定もしない代わりに、部下が困っていてもほったらかし、である。)否定的な指導は、ミスをしないこと、引いては怒られないことや叱責されないことを目的化させる誘因となる。これでは仕事は面白くないどころか、苦痛でしかない。これは仕事を楽しめないというだけでなく、ミスを恐れず次々挑戦的な行動を取れるライバル会社の出現になすすべがない。
これでは成長のエンジンである部下のモチベーションが維持できる訳がない。
これは私の個人的な意見だが、仕事の厳しさを教えるのが指導者ではないのだ。
仕事の面白さを教えてくれる、あるいはその環境を整えてくれるのが良き指導者なのである。
どうしても分かって欲しいと切に思うことだが、人は誰しも自分を必要とし期待を寄せ、活かしてくれる場所で働きたいのだ。
サトミ営業相談所はそんな場所を実現するプロフェッショナルでもあるのだ。