先日、ある会社の営業会議(今回は社長と営業部長、そして各営業所の所長が参加した幹部会議)にお邪魔してきた。私は求められるまでは発言せず、じっとみんなの意見を聞いていた。当然だが、社長も含め、この会議に参加したメンバーは私のことを営業のスペシャリストだと思っている。私がここで発言してしまうと、みんなが自由に発言しにくくなると考えたのだ。
(私のことをある程度知ってもらい、「どんどん意見を言って欲しい。私の意見の反論もして欲しい。私の意見やアイデアよりも少しでもいいモノがあればそちらを採用すべきだ。何故なら私と皆さんが共有できる目的はこの会社の営業力を高め、結果を出すことに尽きるからだ。私が皆さんに感謝されることではない」と私が心底思っていることを理解してもらえると、どんどん意見が飛び交い、その会社の選択肢が広がり、結果として内容が充実するはずだ。)
そこで、その会社で最も実績を上げているT営業所のH所長がこう発言した。「ウチのライバル会社のA社が価格攻勢をかけてきていて、ウチの半値くらいで得意先に売っているらしい」と。それを聞いた他の所長が「確かにA社によくやられていますね。うちも価格攻勢でやられているのかもしれない」と発言した。するとどうだろう。その他の所長達が次々とその意見に賛同し始めた。最後に社長が「A社の価格攻勢の対応策を検討する」と結論付ける直前で私が「その議論、少しお待ちください」と待ったをかけた。理由は言うまでもないだろう。実績好調のH所長が言っているというだけの根拠が乏しい情報をもとに会社の方針が決定しようとしていたからだ。
こうしたことは企業に限らず、お店など組織における会議やミーティングではしょっちゅう起きる。私もサラーリーマン時代から現在の仕事に就いた今に至るまで何度もこのような光景を見てきた。
ポイントは二つだ。
1.発言者は必ずしも会社全体の利益を考えて発言するわけではないということ。
2.発言権が大きい人(例えば社長や実績・結果を出している人)の意見が必ずしも正確であり、正論だとは限らないのに、意見としては通りやすくなってしまうということ。
こうしたことは会社に限らずあらゆる話し合いにも通じる話だと思うので、よく読んで欲しい。
会議や議論において必要なことは、一人の意見ではなく、多くの人間の知恵と情報を結集して、より正確に情報を分析することで、より理にかなった妥当な方向性を出すことだ。(何も決まらない会議はダメだと思い込んでいる人がいるが、全く納得できないようなことを新たに決めるくらいなら何も決まらない方がまだマシだと私は思う。)
だが、多くの企業や組織では意見の内容や根拠そのものではなく、誰の意見かを見てしまい、その議論の目的が見失われてしまってはいないだろうか。
例えば、全く営業実績が上がっていない営業マンが出した意見や情報の方が正しい時も勿論ある。その場合、正確な情報が会社にとって望ましくないモノだとしても、その意見がただの憶測ではなく、根拠がきちんとある場合は当然聞くべきだ。いやむしろそういう意見の方が聞く必要があるはずだ。だが、現実には営業マンと営業責任者を集めた会議では営業実績を出している人間の発言は尊重される一方、営業実績を出せていない営業マンなり営業責任者は発言が取り上げられないだけでなく本人が遠慮してしまい発言を控えることが多いのではないだろうか。
考え方の問題であるが、本来会社が売上を上げていこうと思ったら既に営業実績を出している者の意見よりも、不振に苦しんでいる者の「こういうモノがあったらもう少し売れると思います」という意見の方が現時点からの売上の伸びには直結しやすいはずだ。「結果も出していない者の意見など聞きたくない」というのはただの感情論であり、ビジネスの現場においてはそちらの方がシビアさに欠けると私は思う。
私が何故長々とこの話をしたかと言うと、このような会議の風景はどの会社やお店でも起きているが、このような会議で決まったことの影響・意味はとてつもなく大きいのに、「社長が言うんじゃ仕方ない」「営業成績がいいT営業所のH所長の言う事ならそうなのかもしれない」という感情論・雰囲気がこの会議を支配しているからだ。そんな中で決まったことが全営業マンの営業活動に多大な影響を与える。お店であれば、お店のスタッフに影響を与える。つまりはその会社やお店の実績に影響を及ぼすのに、このような空気が流れている中であらゆることが決まっていくのは非常に勿体ない、いや正直に言えば恐ろしいと思っているからだ。
会議においてはその発言者ではなく、発言した内容とその根拠で取り上げるべき意見かどうかを判断する。これを徹底するだけでいいのだ。そうであれば、営業実績は営業実績、会議での立場は別問題として、誰もが意見をしやすくなるし、一部の人間の凝り固まった意見で常に決定事項が決まっていくという硬直的な状態を脱することもできる。たったこれだけで、現場と上層部の乖離は断然減るはずであり、会社の実績も望ましいモノに近づいていく。
私がこの仕事をして気付いたことだが、衰退する組織・企業は高度な技術や判断力がないから衰退するのではない。考えたら誰にでも分かる簡単なことが出来ない会社が衰退していくのだと思う。どんな組織にでも見られる会議でのこうした風景もその一つかもしれない。
会議を変えれば、その会社が変わる。
サトミ営業相談所はこうした会社の当たり前の風景にも「待った!」をかける、世界一優しく世界一シビアな営業の専門家なのである。