先日、誰もが知る大手企業の経営者にスポットを当てた番組を見ていたら、その経営者の肝いりでスタートした「失敗したことを皆の前で報告する会」を取り上げていた。その番組では「成功したことは誰でも報告したがるが失敗したことは報告したがらない。そこでこの経営者は対策としてこのような会を立ち上げた」と言う風に肯定的に取り上げていた。
果たしてそうだろうか?私はこのやり方がいいとは全く思わない。
二つのポイントを指摘したい。
一つは会社がいくら失敗したことを報告させようとしても、スタッフは皆の前で出来るだけ致命的な失敗は話したくないと思うはずだということだ。つまり自分自身の中で報告する事案を取捨選択することになるのではないか?ここがポイントなのだが、いくら「失敗を共有するため」「失敗を否定的に捉えないため」と建前を会社が掲げても、スタッフから見ればノルマ以外の何物でもない。まして、そんな建前を真に受けて、出来るだけ大きな失敗談を語ろうなどという人間は少数だろう。誰だって自分のことを「仕事で失敗した人間」などと思われたくはないのだから。
はっきり言って、これで失敗をネガテゥブに考える雰囲気を是正できるとは思えない。スタッフは話したくもない失敗をもっともらしく聞こえるために資料を作っていることになるのではないだろうか。あくまで仮定の話だが、だとすれば意味がないだけでなく、本末転倒の最たるものだと言える。そもそも失敗を共有できないとしたら、それは公表する場がないからではない。社内の評価体制が失敗を公表するのでなく、隠ぺいすることにインセンティブがあるからに他ならないからだ。会社は失敗や不祥事の隠ぺいや嘘を失敗そのものよりも大きな最大の罪と言いつつ、失敗には評価ダウンという結果を厳然と突き付ける。これは矛盾である。その評価体制の中で、ほとんどの社員は確実にバレない、もしくはバレない確率の方が高ければ隠ぺいしたくなるのは当然の感情だろう。それが人間の本質であり、「隠ぺいは最悪だから正直に申告しなさい。申告したら評価を下げるだけだから」というのは矛盾していないようでスタッフからしてみれば矛盾しているということだ。結局は、会社が失敗に寛容ではないことが根本にある限り、取ってつけたような会議や委員会などはスタッフにしたら二重三重に面倒なだけだという簡単なことに気づけていないということだ。少なくともこの誰もが知る超有名企業ではそうなのだろう。そもそもそうした人間の本質を理解していないから、このような意味不明な会の開催に至ったのではないだろうか。多くのスタッフはそれほど批判されない程度のギリギリの失敗談を見つけてきてもっともらしく話すだろう。
本来、失敗とは犯したくはないのに犯してしまうモノだ。会社が厳格にやろうが、寛容的であろうが、ミスは犯したくない。それは変わらない。だが、会社の減点方式の評価体制では一つの失敗を挽回するのはかなり難しい。だから、本来であればこうした失敗を報告する会の開催ではなく、失敗で評価を下げない評価体制、雰囲気醸成が先であり、それが実現してしまえばこんな会は必要ない。あとは社内で共有するだけならわざわざ顔を合わせる必要もない。どこかに投稿しておいてスタッフなら誰でも読めるようにしておけばいいのではないかと思う。匿名性が高い方が自然とより詳細を説明しやすくなるはずだ。
二つ目は大企業や有名な企業経営者のやることは合理的で正しいはずだという思い込みである。番組制作側はある程度仕方ないとしても見ている側もそうした思い込みをしている人が多い。
当たり前だが、大企業とて間違う。いや大企業の方が意味不明な組織の論理が原因で信じられないルールを採用したり、デタラメな失敗を平気でするものだ。これまで大企業が起こした数々の不祥事が全てを証明している。誰かがその矛盾を気づいたとしてもどうすることも出来ないのかもしれない。だから、見る側が情報を提供する側の意図やポジションを見抜いて、自分自身でよく考えてみることが必要だろうと思う。
ではどうすればいいか、企業がスタッフに失敗や損害を問わないことだ。しかし、そんなことをにわかに宣言できる会社などそうはない。会社は利益を追求する集団であり、サークルではないからミスを許せないという事自体は理解できる。だが、時には失敗するリスクを冒しながら運営していかないとリスクを取れる会社にはやがて力負けしていくのも一面の事実であろう。失敗やリスクを許容した方が成功にはつながりやすい、しかし野放図に失敗を許容すれば損失が積み上がっていく、この関係性はトレードオフであり、どうバランスさせるかで会社のカラー・雰囲気はガラッと変わり、成長のエンジンであるスタッフのモチベーションに大きな影響を与える。ここでバランスさせるのがベストという正解などないから、組織運営の永遠のテーマだろう。
サトミ営業相談所は企業の売上をあげるための最も効果的な手段として、スタッフに仕事の面白さに気付いてもらいモチベーションを最大限上げていくことに注力してアドバイスをしていく。失敗を公表する会という枝葉のことにこだわっていても根本的な解決には至らない。そうではなくあくまで根本的なこと、本質にこだわるからこそ、オンリーワンの存在なのである。