「すぐに使える営業テクニックを教えて欲しいです。」こんな風に私に言う営業マンは多い。
(予め定義付けをしておくと、営業テクニックとは心理学を営業の場面で活用した技法のことである。)
私はこれまで時を変え場所を変え、営業テクニックなど要らないと何度となく主張してきたし、こうした依頼に対して今でも同じような説明をしている。しかし、必要ないという事と、存在しないという事は勿論全く別の話である。
むしろ私が問題視しているのは、営業本やYouTubeやブログにおいて、あらゆる有名企業の優秀な営業マンや経営者が語る営業テクニックが不特定多数の人に読まれたり見られたりすることを前提に紹介されているという事だ。これらが有効だと主張するということはどんな営業マンがどんな商談相手に使おうと、有効であるという事になる。当然の結果として、冒頭の話のように、この存在を信じる営業職の多くがこれらの営業テクニックとは誰が使っても、どんな商談相手に使っても有効であると信じている。私は営業という仕事の真実に迫るため、私自身の手でこの営業テクニック論に終止符を打つことを決意した。
結論から言おう。巷で言われているような、つまりどんな営業マン・営業ウーマンが使っても、どんな商談相手に使っても有効であるなどという営業テクニックなど存在しない。
予め言っておくが、私は営業テクニックの存在そのものを否定している訳ではない。こういう話し方や言い方をした方が相手に伝わりやすい、相手が受け入れやすいという技術は勿論ある。私自身顧客からは「あんなに営業テクニックを持った営業マンは見たことがない」とこれまでも現在も何度も言われる人間である。しかし、それは商談を繰り返していくうちに自然と身に付いたものであり、人に教えるモノでも教えられるモノでも教えて効果が確信出来るモノでもないというのが私の立場である。
当たり前であるが、人それぞれ個性やキャラクターが異なり、同じような内容で全く同じ話し方をしても、相手に与える印象はまるで違う。スーツや服と同じだと思って頂ければ分かりやすい。そのスーツや服そのものがカッコいい、素敵だということと、誰が着ても同じように素敵かという事は必ずしもイコールではないということである。これも当たり前であるが、実際には着ている人によって、そのカッコ良さや与える印象には相当バラつきが出る。もっと言えば、カッコいいスーツであっても全く似合っていなければ、似合いもしない服を選んだあなたへの印象は決してプラスにならない。多分マイナスになるだろう。ここまで話した時点でお気づきかもしれない。そうだ、そのスーツを着たあなたを見ても、見る人の好みによって印象や感じ方に大きくバラつきが生まれてしまうのだ。厳密に言うと、それを見た人の体調や精神状態によっても抱く印象に差は生まれる。
これと営業テクニックは同質のモノであり、使う営業マン・営業ウーマンの個性やキャラクター、そして商談相手の好み、商談相手の状況・状態という最低三つの変数に大きく影響を受けるファクターだという事だ。特に商談相手の好みや精神状態によって、同じような話し方や説明を受けても印象や感じ方に差が生まれるということは、自分が買い手となった時を振り返ると容易に想像できることではないだろうか。同じ販売員の同じ説明を隣で聞いていた友達や家族が自分とまるで違う印象を抱くことなどしょっちゅうあるのではないだろうか。
私はこうした事からも簡単に導き出せる結論、誰がどんな相手に使っても有効な営業テクニックなどないということを言っているだけである。実に簡単な話である。
繰り返しになるが、営業テクニックを紹介する本や動画やブログは、不特定多数の人に読まれたり見られたりすることを前提に紹介されている。「こんな人は使わないでください」「こんな相手には使わないでください」という断りがなければ、どんな営業マンがどんな商談相手に使おうと、有効であると思うのは当然だろう。
もしかして、私が知らないだけでこうした断りを入れている発信者はいるのかもしれないが、事実として読者や視聴者に伝わっているとは思えない状況ではある。
私はそんな営業テクニックなどないと主張しているに過ぎない。
しかし、営業の世界ではこれまで何十年とその存在が信じられてきた。何より結果を残す多くの営業マンが自身の営業テクニックを周りの人たちに披露し、その効果を主張してきたことがその根拠となってきた。
だが、これらの多くは営業マン自身が一方的に言っているだけであり、商談相手である顧客がその都度証言した訳ではない。ここが見落とされがちな視点ではあるが、顧客の多くはそれらの営業テクニックによって契約に近付いた訳ではない。「誠実な人だから」「頼りになるから」「熱心に提案してくれたから」こんな素朴な理由で契約してくれた顧客がほとんどだろう。それが営業活動の本質である。このように少し考えれば、簡単に分かる話が見落とされ、営業マンが特殊なスキル、説明能力、プレゼンで顧客の気持ちに変化を与え契約に導いたというカッコいいストーリーを信じ込んできたのである。
結果として、有効な営業テクニックを紹介する営業マンは数多く存在しても、「そんなもん、無いぞ」とはっきりと断言した人間は現れてこなかった。
もっと言うなら、大半の方があると信じている中で、「ない」と断言できる自信を持った人間がいなかったのだろうと思う。
しかし、実はもっと違う視点でこのような営業テクニックが存在しないことを証明できることも付け加えておく。
それはその対策が存在していないことである。これはあらゆる業界、あらゆる勝負の世界の鉄則中の鉄則であるが、それさえ使えば有利に立てるという技術や方法があるなら、すぐにその対策を考える人が出てくる。これはスポーツの世界でも何でもそうだろう。
しかし、営業テクニックに関しては真剣にその対策を論じた人も組織も聞いたことがない。これは影響力がほぼ皆無であり、それによって営業活動の窓口である購買担当者の心理がコントロールされることなどないことの何よりの証拠ではないだろうか。
もしそうした営業テクニックによって担当者の意志が簡単に変わってしまうのであれば、購買担当者が自社の利益を度外視して、契約するリスクが生じる。会社としては大損害である。
こんな簡単なことに何故誰も気づかなかったのか正直不思議である。こんな風に言ってしまえば、この議論に終止符が打たれることを私は分かっていた。
しかし、公平な議論として、この営業テクニックが果たしたプラスの面にも触れなければならないだろう。それは、結果が出ずわらにもすがる思いで営業テクニック本やYouTube動画を見て、モチベーションを復活させる営業マン・営業ウーマンが少なからずいた事である。それでたまたま結果が出て、営業という仕事の本来の面白さに気付く人がいるならそれはそれでいいような気もする。
一方で、冷静な議論として、何故営業テクニックが未だ存在が信じられ重宝されているかというと、今目の前にいる顧客がその営業テクニックの効果によって契約に近付いたのかどうかの検証が困難だからではないだろうか。
契約に苦しむ営業職の立場に立てば、その本や動画で知った営業テクニックを使って結果が出た場合、営業テクニックの効果と信じて疑わないのは自然の事であろう。しかし、効果が検証できないモノは無効であることもその存在の証明も共にできない。
これはあらゆることにあてはまる基本的な考え方である。こうしたことはビジネスの現場では、ないモノとして考えるのが私は合理的だと思う。
今回で、巷で言われているような営業テクニックの存在が幻想であることは多くの方に理解して頂いたと思う。
残念ながら、営業活動にショートカットなどない。自分自身が『顧客との約束を守り、顧客と自分の立場の違いを確認しながらそれを埋める』という地道な作業を続けていけば契約に近付いていく。営業テクニックに頼るより、こうした地道な営業活動の積み重ねで、顧客と人間関係を構築していくことを目指す方が確実で合理的であるということだ。その中で、自然と自分の性格やキャラクターに馴染む話し方が身に付いていく。それがその営業マンにとって最も揺るがざる最強の武器になっていくのだ。
もっと言うなら、営業テクニックなどなくても自分のキャラクターや個性だけで勝負できるという営業の真の面白さに迫って欲しいものである。
もしかして、テクニックを駆使して顧客を説得するというスタイルの方が、顧客と人間関係を構築するというスタイルより何だかスマートなイメージを持つのかもしれない。
しかし、私に言わせれば、顧客との人間関係を構築し「いかにえこひいきされるか」という戦いの方が余程知的でスリリングで面白い戦いだと思う。
このように、サトミ営業相談所は常識に捕らわれず、営業の本質と面白さを誰よりも語れるからこそ、日本初の営業の専門家と呼ばれるのである。