改めて言うが、私は営業の専門家である。もっと噛み砕いて言うなら、売上UPに特化したアドバイザーである。最近でこそ、営業マン・営業ウーマンにマンツーマンで相談に乗ったり、私の経験や知見を買って頂いた製造業のメーカーや新たなサービスのリリースを控えたスタートアップ企業の担当者と販促方法や販路選択・製品開発について議論したり、お仕事意見交換会などの座談会を主催したりと仕事の幅はどんどん広がっている。しかし、本業はあくまで企業の営業戦略立案であり、それが私の能力が最も発揮され、相談者に最も喜んでもらえるテーマである。
企業の悩みは勿論売上だけにとどまらない。しかし、売上は企業の生命線だ。
この売上をUPさせるにはどうしたらいいか、これが私の腕の見せ所だ。
こうした場面で聞き取りを進めていくうちに、
相談者である企業経営者の口からよく聞くのは
「他社さんは知りませんが」「他社がどうしているかは分かりませんが」という言葉である。
今回はその事について、指摘したいと思う。
結論から言おう。売上を増やしたいなら他社のことは知るべきだ。確かに、世の中には他社のことをほとんど知らなくても結果を出す企業やお店はある。しかし、それは消費者から見て、他社に比べて良い商品やサービスを提供しているか、もしくはサービスそのものの告知・広報に成功しているかのいずれか、もしくは両方を偶然満たしていただけだ。(因みに前者が製品・商品などのサービス開発、後者が私の専門の営業戦略に分類される。)
当然こうした企業の存在が他社のことを知らなくていいことには結びつかない。
むしろ、こうした企業も他社のことを知っていれば、もっと効率的に、現在の売上、いやそれ以上の売上を獲得していた可能性だって十分ある。
まして、現在の売上に不満を抱いていて、今より売上を増やしたいなら今から新たな手を打つ事になるだろう。コストも手間もかかるだろう。少なくとも今までにない行動を始めるのなら、出来るだけ効果の見込める手段に絞り込みたいはずだ。であれば、他社のことを知って新たな手を打つのが最も合理的であると私は考える。
何故なら、自分たちで「これは素晴らしい商品だ」と思っていても、それを評価するのはあくまで消費者であり、その消費者はあなたの会社の商品やサービスと他社商品を常に比べて良い、悪い、どちらでもないという評価を下しているからだ。
これは誰もが知る有名企業や大手メーカーも同じ宿命を背負っており、その例外はない。
たとえ、技術的に或いはスペック的に革新的、オンリーワンであったとしても、その事と消費者がそれを理解し、評価するかという事は全く別の話である。ここを理解していないビジネスパーソンが多いのだが、自社しか理解していない、もしくは知らない商品の素晴らしさなどはビジネス上何の意味もないということだ。一人でも、二人でも素晴らしい商品だと評価してくれるユーザーがいれば、そうしたユーザーを増やす努力や工夫を考えればいい。しかし、その技術やスキルや性能を誰一人として、評価していないのではただの自己満足に過ぎない。
単純な話だが、他社のことを調べた結果、オンリーワンだと思っていた自社商品が既にオンリーワンでない場合もあるだろうし、良いサービスだと自負していても他社でも似たようなサービスを自社より低価格で始めていたという情報に到達してしまうかもしれない。他社のサービスの変化を定点観測していればこうした事は無くなり、あったとしてもすぐに気づける。
更に言うならば、他社を知ることが結果として『消費者は何を求めているのか』という問いの答えに近付く。勿論、他社の動向を知ったことでユーザー全体の感想やニーズが分かるわけではないが、他社の販売戦略を通じて消費者の需要が分かることはある。
何故なら、他社が消費者や市場全体をどう分析し、どのような需要があると予測し、商品開発・新たなサービス開始にどう生かしているかが分かるからだ。
つまり、他社のサービスの展開というフィルターを通じて、消費者が見えてくるということになる。こうした事に気付いていて目的を持って常に他社の動向に気を配っている企業と、気付いていないものの何となく他社の動向をチェックしている企業と、全く他社に関心を抱かない企業が何年も競争することを想像すると、恐ろしい差が生まれるとは思わないだろうか。どちらが勝負を制するかは火を見るよりも明らかである。
勿論、経営者の多くが他社を知らないのには色んな理由があるだろう。
「ウチにはウチのやり方がある」、「他社とウチは違う」、「他社のことを知ったところで出来ることは限られている」。私はその都度、それでも他社のことを知るべきだと伝える。
これから売上を増やしていこうと思うなら、避けては通れないポイントだからだ。
例えば、あなたが日暮里駅前にあるそば屋の店主だとしよう。
「ウチのそばは相当こだわって作っている割には低価格なのに何故売上が下がっているのか」といくら考えても、答えなど出ない。
そんな時はネットで「日暮里 そば」で検索することだ。
口コミなどを見れば、ここ最近日暮里近辺で人気のあるそば屋がすぐに分かるはずだ。
勿論、価格帯も分かる。
自分の店が消費者から見たら魅力的じゃないことも分かるかもしれない。
或いはこだわって作っていること自体が消費者に伝わっていない可能性もある。
これらは消費者がどのようにどの店でそばを食べるかを考え決めているのだろうかと、想像していく中に生まれる。
そして、その想像にヒントを与えてくれるのが
ライバル店のメニューであり、変化であり、価格帯だという事になる。
ライバル店なんか関係ないと思わずに、顧客の動向を知る最大の情報源だと思って他店の動向を見ることが必要だという事だ。
もっと言うなら、ライバル店の店主も同じように他店のことは容易に調べることが出来る。
それでもなお、他店は知らないというのは勝利にあまりに無関心すぎるのではないだろうか。
(これは実際あった話だが、ある街のあるお店のオーナーが「同業者はこの街に1店しかなくて、ウチはそこよりサービスもいいし、価格も安いのに最近売上が伸びない」と吐露していた。しかし、私がその場ですぐにスマホで調べたら同業者の方がわずかに安かった。つまり、オーナーが知らなかっただけでどこかのタイミングで同業者が値下げしていたのだ。そこで値下げで応酬するのか、違う手を打つのかは意見が分かれるところだろうが、少なくともこうした情報を知っていたか知らなかったでは大きな違いを生む。信じられない話だが、間違いなくそこら中で起きている話であると思う。)
こうしたことは恐らくほぼ全ての業界において、必要なことだ。
では、具体的に何をすればいいかと言うと、自社が、どこの会社やお店と一番比べられているかという視点で2,3社ピックアップし、常にその動向を見るということだ。
週に1回でも月に1回でも継続できる範囲でいい。
今ならホームページやSNSをチェックすれば簡単に出来る。
もし製造業などのようにその業界の製品を紹介する専門サイトがあるなら、その専門サイトからライバル会社の動向やライバル商品をチェックするのもいいだろう。
私が企業の営業戦略の相談に乗る時は、こうした事をしているかを必ず聞くが、ほとんどの企業はしていない。
おそらく経営者がそこまでしていなくても、少し目端が利く営業マンなら、その程度はしていると思う。
因みに私のメーカー営業マン時代には、ライバルメーカーの類似商品の価格帯・スペック・自社製品紹介文を複数の販売サイトで毎朝チェックしていた。他の社員は「そこまで毎日見なくても、そんなに変化ないでしょ」と不思議がっていたが、私が思うにそこまで誰もやってないからこそ、その少しの変化に誰よりも早く気付くことが出来ると考えてやっていたわけだ。こうした定点観測は毎日だと5分で出来るし、それだけの時間でちょっとした変化にすぐに気づくことが出来る。
自社の会議で発言する時も何を根拠に自分の意見を述べるかというのはこうした細かなことの積み重ねによるものだ。
(実はこのように他社(他者)を知るということの大切さは、一人の人間にも言えることではないだろうか。
自分がどういう人間かを知りたいのなら、他人に関心を持ち、他人と語り合い、他人を知る方がいい。他人と自分を比較した方が、自分の個性が浮き彫りになるはずだ。つまり、自分以外の人間に共通していて、自分にない点があればそれは自分の個性か、欠点か、長所だからだ。自分自身をいくら見つめたとしても、自分自身の姿など見えてこない。
他人から見た自分の姿、他人と自分の比較の追求無くして、自分の姿など見えない。
国にも言える。日本という国がどんな国かを知りたければ、日本の伝統や文化や歴史を知るだけでなく、外国に行き、その文化や伝統やそこに生きる人々を知る方が日本という国がどんな国かが見えてくるのではないだろうか。私はそう思う)
まとめよう。
物事の価値や評価は絶対的なものなどない。
常に相対的なものである。
この原則に例外はない。
趣味なら自身が楽しく、自身が満足すればそれでいい。
しかし、ビジネスの現場で売上を増やしたいなら、良い商品・サービスとは自分がいいと思うモノではなく、あくまで消費者が買いたいと思うモノだと明確に定義付けをしなければならない。そして、消費者が買いたいモノとは、他のどの商品よりも買いたくなるモノ、他でもない「あなたの商品を買いたい」と思えるモノでなければならない。その為の手段や理由や要因が魅力ある商品そのもののスペック・価格であり、営業活動による「この人から買いたい」「この会社から買いたい」という消費者の評価の獲得ということになる。
売上UPとはいかに知られるかを、そして知ることが出来た顧客をいかに購買という行動につなげるかという戦いである。
これらのことを踏まえれば、まずは他社のことを知るということが最低限必要なことはすぐに理解できるはずだ。
因みに私が日本初にして、日本唯一の営業の専門家だと名乗っているのも、情報収集と研究を重ね、更に相談者の評価から、相対的にその資格があると確信して生まれたことである。