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その顧客第一主義で本当にいいの?

2020.10.31
その顧客第一主義で本当にいいの?

先日、ある営業ウーマンに聞かれたことがあった。

「川端さん、これってSNSで読んだ話なんですけど、スゴイ考えさせられまして・・・

ご意見を聞かせてもらっていいですか?

こういうシチュエーションの時、どうすべきなのかという問いかけなんですよ。

月末になって私の数字があと少しで目標達成のところまで来ているとします。目の前の顧客からあと一つ契約を獲得できれば目標達成。でも、私から見てもこの顧客にとってウチの商品より他社の商品の方が明らかにメリットがある場合、それでも自社商品を売って目標達成させるべきなのでしょうか?それとも顧客の為に、正直に『他社の方がいいと思います』と打ち明けて目標達成を諦めるべきなのでしょうか?

 

私は『営業が自社商品を押して、何が悪いの?』って思うんですけど、そこに寄せられた意見は『自身の目標達成は諦めて他社の商品を勧めるべきだ』『営業とは顧客の為に何が出来るかだ』という意見一色だったんでショックで・・・

私が知る限り、最強の営業マンである川端さんがどう答えるのか、スゴイ興味あります。」

さて、ここまで読んだあなたはどう思われただろうか?

 

結論から言おう、私は自社商品を売って目標達成させるべきだと思う。

それ以外の選択肢は私にはない。

 

ここからは私の個人的な考え方を述べる。

私は何が顧客のメリットになるかどうかの最終判断は顧客自身が決めることだと思う。いやむしろ顧客自身にしか下せない判断だと思う。営業職が「自分の提案が顧客自身のメリットになるのか」「何が顧客にとって有益なのか」を考えるのはあくまで契約を取るためだ。目的が契約の獲得、その手段が顧客のメリットやニーズを把握する事だという基本的なことを忘れてはならない。そして、ビジネスの現場で最も大事なことは、自分のポジション・立場において最大限利益を追求することに徹することではないだろうか。営業職なら契約を獲得し、売上を上げることである。他社商品の方が顧客にとってメリットがあるから目標達成を諦めたという行動がもし正当な行動なら、自社の上司や組織に対してもそのことを説明できるはずであるが、そのことを堂々と説明できるという方は他社商品を勧めるべきと主張した方の中にどのくらいいるのであろうか?

 

 

何より、我々営業職は顧客のメリット、もっというなら気持ちや事情を顧客以上に把握することなどできない。これはどんなに優秀な営業職でもできない。もし出来ると思い込んでいるならそれは思い上がりである。ここは謙虚に知っておくべき事実だ。繰り返しになるが、営業職側で契約を取る為に他社や顧客の事情や考え方を知ることは必要だろう。勿論、自社製品よりも他社の方がいいのではないかと先回りして考えるのはいい。しかし、契約の獲得そのものを放棄し、また他社に契約を譲るのでは本末転倒ではないだろうか。更に言えば、この場合他社商品の方が顧客にとってメリットがあるというのは商品そのもののスペックや価格と自社のそれを比較して、他社の方がいいと思ったのだろうが、顧客は商品のスペックや価格だけを比較して購買を判断している訳ではない。その後のフォローやトラブルが起きた時に真摯に対応してくれるのか、という点だってどこから何を買うのかという時の重要なファクターだろう。もっと言うなら、好きな営業マン、信頼のおける営業ウーマンから買いたいという理由だってある。それだって、十分正当な理由ではないだろうか。それらを複合的に考えて、どこから何を買うべきという判断は顧客本人にしか出来ないのではないだろうか。少なくとも、営業職に判断できることでも判断すべきことでもないと私は思う。

 

そもそも営業職の本来の任務とは、顧客に商品をより良く見せることではない。まして、顧客のメリットを最大化することでもない。それは営業職の課題ではない。誤解を恐れずに言えば、営業職の任務とは、営業職を媒介させることでえこひいきを誘発し、商品の優劣をぼかし、一定程度無力化することだと思う。メリットにならないと勝手に幕を下ろすのは営業職本来の任務放棄であり、営業という仕事への不理解であり、単純に自社への裏切り行為であると私は思う。

顧客を裏切ることはダメで、自社への裏切りが許されるというのは大いなる矛盾であり、論理的にも根拠がないと思うがいかがだろうか。

 

勿論、営業職が全ての場面・局面において、自社の利益を追求するというのは不可能だ。顧客担当者との関係を維持するためや、顧客担当者の顔を立てるために、妥協したり、譲ったり、価格交渉に応じることは当然ある。しかし、これらの行動は全てその後の契約に近付く為の手段であり、自社商品の提案・契約そのものの放棄とは真逆の行動である。もし、今回のような状況で契約を放棄し他社商品を勧めることが正しいとしたら、(一部そういう意見もあるだろうが、)今回契約を他社に譲ったことによって、顧客の心象を良くし一度の失注を補って余りある契約を生み出す可能性を見出してなければならない。しかし、少し考えれば分かることだが、今後同じシチュエーションになった時には毎回他社に譲らなければならなくなるのではないだろうか。いやそうでなければ逆におかしい。月末で目標達成寸前の時ですら他社に譲った訳だ。普段なら尚更譲らなければ矛盾した行動となるはずだ。或いは、顧客は今後提案の度に「今回は他社よりメリットがあるのかな?」と確認してくる可能性だって十分あるのではないだろうか。当たり前のことだが、顧客はその自身の立場においてメリットを追求する権利がある。そうした事態は十分想定できる。ライバル会社がそうした制限を一切受けない中で、それでも契約を増やせるのだろうか。

勿論、全ての顧客がこのような行動を取るとは限らない。中には、他社に契約を譲った営業職に感謝して契約が増える場合もあるだろう。しかし、少しでも営業という仕事を経験したことがある方なら、私が指摘しているリスクの存在を理解して頂けると思う。

良くも悪くも営業活動に終わりはない。だからこそ、この程度のことは想定して、自分の行動を決めるべきだと私は思うがいかがだろうか。

 

それにもし客の立場に立ってということにこだわるなら、月末までに売れたそれまでの契約も全て、顧客にとって自社商品の方がメリットがあったのかを精査し直さなければおかしい。月末目標達成寸前というのは顧客には本来関係ない。そこで初めて顧客にとってメリットがあるのかと考えるというのも一貫性に欠けるのではないだろうか。

 

こうした問いかけは仕事に対する価値観の問題であり、誰がどのように考え、最終的にどういうポジションを取ろうが自由だ。それを否定するつもりもその必要もない。

 

しかし、今回のSNS上の議論で一体何が起きたのかというと、

『営業職の価値=顧客の為に一体何ができるのか』

という現在の主流の考え方が独り歩きした結果として、

本来自身の仕事においての考え方や価値観は自由であるはずなのに

『顧客第一主義はあくまで自社の利益を追求するための手段であり、自社の利益を放棄してまで顧客

の利益を優先させる必要などない』という意見がまるで出なかったという異常事態だ。

 

仕事の目的や喜びは人それぞれの形があっていい。

私と意見が違い、それでもやはり顧客に正直に言うべきだという方がいても、私は何も思わない。

その方の価値観や意見は尊重する。

それが私のスタイルだ。

顧客の喜ぶ顔が見たいでもいいし

会社から少しでも高い評価を得て出世したいと思ってやってもいい。

給料を上げたいだけだなんてシンプルで素晴らしい理由じゃないか。

 

でも、一方で仕事を楽しむためには自分自身が「この目的のために仕事をやりたい」という根本的な

ものがあり、

またそれが誰からも否定されないことは最低限必要だと思う。

そのためにはそれらが現実に即していなければならないのではないだろうか。

 

私は営業の専門家として、起業の際にこのような目標を掲げ、ホームページに記載した。

「奥さんの喜ぶ顔が見たい、

母親に「自慢の息子や!」って誇らしく思って欲しい、

そして世の中の色んな人の役に立ちたい!」

これは偽りのない私のテーマである。

自身が満足するのは当然として、奥さんと母親に喜んでもらい満足してもらうことを、社会貢献と同列に掲げ、必ず実現させると高らかに宣言したのだ。

この3者を満足させてこそ、ビジネスとして真っ当であり継続できると信じたのだ。

我ながら、自分らしくウソ偽りのない正直なテーマだと思う。

サトミ営業相談所はただ見栄えや聞こえのいい言葉やテーマを追求するのではなく、ビジネスの本質に迫ってその矛盾に立ち向かうからこそ、日本唯一の営業の専門家と呼ばれるのである