半年ほど前に、オンライン相談において相談者Aさんにこう聞かれたことがある。「川端さんはどのような経験や経歴を積んでそのような知見やノウハウを得られたのですか?」
私は「いやいや、私は営業畑でずっとやってきただけで、企画をやったこともなければ会社の営業戦略立案を担当する部署にいたこともありません。独学どころか全くの我流ですよ。ただ、大きな会社から小さな会社まで在籍しその中で営業活動を行ってきたものですから、大小さまざまな企業の経営者の気持ちや課題が何となく理解できます。また必要なことも人並み以上には分かると思います。あとは営業職時代からもっと売れる方法は他にないモノかとずっと考えてきましたから、それが今の自分を支えているのかもしれません。」と答えた。
すると、AさんはBという企業のホームページを私に見せながら、こう切り出した。「私はこのB社へのコンサルを担当していて、どうしたらもっと販売実績が伸びるのかと議論してきたんですが、一向に進んでいないんです。それが、川端さんとたった1時間話しただけで次々と、手を付けるべきこと、見落としていたことを指摘されたものですから、驚きましてね。
確かに、B社のスタッフは頭が良く、実に合理的なんですよ。価格帯などの情報分析も適切で問題ない。でも、結果が出ないし、話していていつも何かが足りないと感じていたんです。それが何なのかというのが川端さんと話していて、分かったような気がします。」
実はこの相談者Aさんは現役の経営・戦略コンサルタントである。このB社とはITベンチャー企業である。
つまり、現役の経営コンサルタントが私に対して、自身がコンサルをしている企業への【アドバイスについてのアドバイス】を依頼していたのだ。要するに、彼ら彼女らのセカンドオピニオンの役割を私が担っているという不思議な構図だ。
確かにホームページやサービス概要を見る限り、B社は情報を分析し、合理的な商品やサービスを作り上げるのに長けており、製品やサービスもとても斬新で魅力的なモノだった。しかし、残念ながら、合理性を追求し、ユーザーの利便性を向上させれば、結果として売れるかと言うと決してそうではない。
それは製品として斬新で魅力的であるということと、だから「売れる(多くの販売実績を伴う)」ということは全くの別問題だからである。
Aさんが感じた「B社に足りない何か」ということもそうした事だったのではないだろうか。
しかし、こうした傾向はITベンチャー企業に限ったことではない。彼らの情報収集能力が高く、斬新なサービスや商品をつくる能力が高いという点が異なるだけで、実際には商店の経営者も町工場の社長さんも、ネイルサロンのオーナーも、値段が安く、サービス内容が充実していれば(つまりコスパという名の合理性が伴っていれば)売れるはずだと思っている。
だからこそ、逆に売上が期待したほど伴わないと、値段を下げたり、サービス内容を変更することから着手する方が多い訳である。
しかし、それは明確に誤りであると私は思う。
売上に最も影響を及ぼすのは、価格やスペック、仕様、サービス内容ではない。
認知度(いかに多くの方に知られ、いかに商品やサービスのことを理解されているか)である。
これ以上に販売に影響を与える要素ははっきり言ってない。
こうした事は、物理的には、もっと品目が豊富で低価格帯の商品を持つ店はいくらでもあるのに、敢えていつも決まったお店で買い物をする人が未だ数多くいることでも説明できる。そこで買い物をする人はそのいつもよく行くお店やスタッフをよく知っている一方で、もっと豊富で低価格帯の商品を持つ店の存在を知らない、もしくは利用するハードルが実は低いことを知らないという二重の意味で「ビジネスにおいていかに認知度が雄弁か」ということを物語る現象と言える。
アマゾンや楽天でスマホの操作数分でどこよりも安く、そして素早く商品の決済を終え、商品も数日で手元に届くのに、何故急ぎでもないのに敢えて割高で外出が必要な実店舗で全く同じものを買う人がいるのか、という問いにも全く同じ回答で事足りるだろう。
こうした現象は比較的ITツールに苦手意識が強いとされる高齢者に限ったことではない。
中高生の中にも、サービス内容や価格において競争力のない店に敢えて行く人だって数多くいるはずである。それはホームページや検索した結果には出てこないその店の魅力を知っていて、そこに納得して対価を払っているに過ぎない。勿論、彼ら彼女らが非合理的な訳でもなければ、まして騙されている訳でもない。そこが理解できないと、消費者の購買行動など到底理解できないし、まして不振の原因などを特定できるはずがないのである。
つまり、人の価値観や何に対価を払いたくなるかということは私たちが想像するよりはるかに多種多様であるということだ。だからこそ、サービス内容や価格を変更してもどう転ぶかなど本当は誰にも分からない。だからこそ、確実に売上UPにつながる認知度の向上を第一義に考えるべきだというシンプルな発想に私はまずは立つ。
つまり、サービス内容や価格帯の変更はあくまで、認知度向上に不断の努力と投資を行っている場合においてのみ、同時並行で行うべきものであると私は考えている。
当たり前であるが、そもそも商品やサービスが知られてなければ、買うという行動には至らない。至るはずがない。
野球で言えば、どんな高い打撃技術を持っていても、打席に立たなければヒットは生まれないのと同じことだ。
まずは出来るだけたくさん打席に立つ、という事が最低限必要になる。
それに、もし認知度が低いのであれば価格やサービス内容を検証したり見直す根拠も乏しいのではないだろうか?
これらから導き出されることは、売上が思わしくない時に真っ先に疑うべきは自社そのもの、もしくは自社製品・サービスの認知度が低いのではないかという点であるということだ。
繰り返しになるが、本来認知度の向上はたとえ商品の売上が順調であろうが、不調であろうが、不断の努力がなされていなければならない生命線である。
この認知度の向上を一身に背負うのが営業職である。このことは実際に営業職という営業専属部隊のいないお店や飲食店の比較においても勿論言えることである。絶えず、認知度の向上に投資(広報にお金と手間と時間をかける)しているお店とそうしたことに無頓着なお店ではとてつもない差がつくのは当然のことである。
私が尊敬する経営者、チキン南蛮大衆居酒屋あんじゅのマスター竹内さんは、そのずば抜けた接客と料理だけでなく、Facebookにおいて【あらかわらいふ】という地元荒川区のグループに毎日のように投稿している。新メニューのことだったり、新しいサービスを始めた事だったり、単なる日記のような投稿の時もあるが、実にうまいやり方だと思う。
彼はTwitterやInstagramもやっているようだが、圧倒的にFacebookに時間と手間を割いて投稿をしている。それは居酒屋という業務形態である以上、地元荒川区での情報発信が最も効果的だということを知り尽くしているからである。もしビジネスの売上拡大にSNSを活用したいのなら、ただみんながやっているからという理由でTwitterに投稿する、Instagramにおいて情報発信をするというより、彼のように自身のお店がどんな顧客で構成されていて、どこに対して情報発信を行い、どのように認知度を上げていくのがベストなのかという視点を持つことが最も大事なことであるということだ。
では、どのように認知度を上げていくか、これはそのお店や会社の抱える人員、許容できるコスト、時間、経営者の要望によって全て違うからここでは触れない。
具体策については、弊所サトミ営業相談所の川端まで是非相談して欲しい。
最後に、相談を受ける上で私が大切にしている弊所の基本理念を紹介したい。
「企業も社員も十人十色で、考え方も価値観も全て異なる。
それ故に、相談者に対しオーダーメイドのスタイルを貫きながら、
共に悩み、相談者が納得するまで議論を尽くす。
相談者の状況に寄り添い、ご要望に徹底的に付き合っていく、
そして相談者の行動に具体的な変化をもたらす事にこだわり抜く」