営業職はどのようにしたらより多くの契約を獲得できるのか日々考え、研究し、行動している。
しかし、これから私が言う視点を持って、営業活動を展開している人は稀である。
それはいかに『契約から遠ざかっていくお客様を減らすか』という事である。
恐らく多くの営業職は、より多くの契約を獲得できる営業=遠ざかっていくお客様を減らせる営業だと思っているはずである。
もう少し具体的に言うと「お客様と良好な関係を築き、適切な提案を行えば、契約を多く獲得出来、また契約から遠ざかっていく人を減らせるはずだ」と思っている。
しかし、実はそうでもない。
営業は打率を競うゲームではない
説明する。
まず営業は打率を競うゲームではない。あくまで契約という名のヒット数を競うモノである。だから、野球で言えばヒットをより多く打つためにより多く打席に立つ必要があるのと同様に、アプローチ数を増やした方が契約や売上は増えていく。
ここで問いかけたい。
例えば、同じように「PRの機会を欲しい」とお客様に依頼し、2回連続で断られた場合、非常に大まかに分けると営業職は2つのタイプに分かれる。
お客様には聞く気がないと諦める者、何度断られても気にせず何度でも同じ依頼をする者である。
前者のタイプをA、後者をBとすると
お客様と良好な関係を築き、適切な提案を行っている、そうお客様から評価される可能性が高いのはおそらくAだろう。
しかし、この場合契約数や売上において、AがBを常に上回るのだろうか?
お気付きだと思うが、これはそうとも言い切れない。
理由は簡単である。以下3点である。
① アプローチそのものにはそれほど時間も手間もかからない。
② お客様の要望や気持ちを汲み取ろうと努力している営業職と、それをある程度諦めている(もしくはあまり気にしない)営業職を比べても、お客様の気持ちを正確に汲み取れている回数はそれほど開きがない。(お客様の気持ちを汲み取ろうと努力してもなかなか分からない)
③ お客様から見ると、その場の雰囲気やお客様の気持ちを汲み取ろうとしない営業職と、熱心な営業職は紙一重であり、こうした営業職を熱心であると評価するお客様も一定数存在する。
勘違いしてもらっては困るが、私はAがBに勝てないから、全員がBのような手法を選ぶべきだと言っている訳ではない。
また、ここで仮にBの方が契約を多く獲得できると立証したところで、皆がBのような手法を取ることはないし、そうする必要もない。
何故なら仕事の原則として、自分が一番しっくりくるやり方がその人にとってのベストのやり方だからである。
あるべき姿や正攻法にこだわらない
ただ「営業職としてあるべき姿」や「誰からも嫌われないこと」にこだわる必要など無いと言っているだけだ。
そして、ここが営業という仕事の面白いところだが、現実としてこういう一見無神経で空気が読めない人の方が契約を取れる可能性は十分あるということである。
(周りにもそういうスタイルで結果を出す営業職は必ずいるはずである。)
何故なら、繰り返しになるが営業職が思っているほどお客様は自分勝手な営業が嫌いではなく、むしろそういう営業職から熱心さや一生懸命さを感じ、あるいはもっと単純にその押しの強さに根負けして契約する人も必ず一定数存在するからである。
(でもそうしたスタイルがNGだと主張する人が多いのは、そうしたことが原因でお客様の怒りやひんしゅくを買ったケースが印象に残りやすいからである。)
また、多くの営業職はお客様に嫌われることに相当なアレルギーを持っているため、最低限嫌われないことを自己設定していること、そして本質的にはどのようなスタイルを取ろうとお客様の真意など誰にも分からないことが、Aがよりアプローチ数を稼げるBに必ずしも優位に立てない理由だ。
繰り返しになるが、決してスマートとは言えない、空気は読めない、強引な手法の営業職の中に必ず一定数結果を出す人がいるのはこうした背景があるからだ。
逆にお客様受けがいいのに実績自体が伸びない営業職も一定数存在するのもこうした理由による。
要するにお客様に嫌われないことを優先すれば、それだけアプローチ数は減り、当然契約件数や実績も伸びないというシンプルな話である。
アプローチ数を極限まで増やしながら、嫌われる回数をゼロに近づけるのが理論上はベストだが、これはその営業職が持つキャラクター、性格によってどこまで可能かは皆異なるため、この程度がベストというモノなどない。
自分でそれに近い形を探し続けるしかない。
嫌われることを恐れなくていい
私は営業活動を展開する上で、ひんしゅくを買ったり、嫌われたり、離れていくお客様は一定数必ず生まれるという考えである。
そういう意味ではお客様の気持ちを度外視することも必要だと思っている。
人が他人の気持ちを完璧に把握することが不可能である以上、一生懸命営業活動をすることとどのお客様にも嫌われないことは両立しない。
私はそう断言する。
もう少しソフトに言うと、どれだけ気を使い、相手の気持ちをおもんばかってもお客様の心が離れる時はある。であれば、契約の為にアプローチ数を重視する方が契約は多く獲得できるという考え方である。
嫌われないことを優先させて契約の機会とタイミングを自ら放棄するのは営業職としては本末転倒である。
自分の積極的なPRによって、相手にしつこいとか、煩わしいと思われることは受け入れるということである。
しかし、一方でそれでも出来るなら、それ以外の理由でお客様の心が離れていくことは極限まで減らしたいとも思っている。
ここまでが今日の本題、【お客様の心が最も離れていく時】の前提である。
何故、これだけ長い前置きをしたかと言うと、契約を少しでも多く獲得したければアプローチ数を増やすことが必要である事、そして、アプローチ数を増やすにはお客様との摩擦、ひんしゅくをゼロにすることは諦めるべきだということ。
そしてアプローチ数を最大化しながら、【お客様の心が離れていく時】を減らすことが営業活動において重要だということを一つずつ順を追って伝えるためである。
お客様の心が最も離れる時とは?
ここで結論を言おう。
【お客様の心が最も離れていく時】=お客様の期待値を下回った時である。
決して、商品やサービスがショボいと感じる時ではない。
例えば、100円ショップで靴下を買ったとする。その靴下が1か月で穴が開いたとしても、二度と100円ショップで買い物などしないとはならないのではないだろうか。
逆に銀座の高級レストランに行った時、最後のコーヒーが冷めていただけでその店には二度と行かないと思う人は多いのではないだろうか。
それは自分がその靴下への期待値がもともと低く、また逆に銀座のレストランへの期待値が高かったからである。
これは企業の商品やサービスに対しても当てはまる。
それはホームページやパンフレットに書かれた説明からお客様が抱いた期待を下回ったモノが提供された時である。
ここで生じた失望がお客様の追加契約や次の注文の最大の障壁となるという事である。
そして、営業職個人とお客様との間でも当然これらと同じようなことがある。
お客様⇔営業職との間で
【お客様の心が最も離れていく時】=お客様の期待値を下回った時
=【約束が守られなかった時】である。
実は契約や取引のないお客様も既に営業職にコストを払っている場合がある
それは提案の機会を与え、時間というコストを営業職に支払っているということである。
(実は営業職側も同様に時間というコストを支払っているのも事実である)
その時間というコストを支払った時点で、お客様はその営業職に既に何らかの期待を抱いているはずである。
その期待への最大の裏切りが【約束を守らないこと】である。
つまり、商品について書かれた説明と実物とのギャップと同じことが営業職との間に交わされた約束にも起きるということである。
実は抜け落ちているポイント
『いやいやお客様との約束くらい守っていますよ!』という反論が営業職側から来そうだが、私が言っている約束とは何もアポの時間や必要書類の送付などに限らない。
その程度の事はどの営業職も守っているはずである。
しかし、軽く交わした飲みに行く約束、ゴルフに行く約束、急ぎじゃないと前置きされた依頼、お客様自身も忘れているように見える約束、どう見ても契約に繋がりそうにない調べもの、これら全てをどのお客様に対しても守っているだろうか?
契約の有無、契約への距離、付き合いの深さに関わりなく、守り続けている営業職がどれだけいるだろうか?
恐らく、ほとんどいないだろうと思う。
でも、お客様がどの約束を憶えていて、どの約束に期待を寄せていたかなどお客様本人にしか分からない。一方で営業職側では契約への近さなどで優先順位を勝手に決め、優先して守るべき約束を決めているはずである。
結果として何が起きているかというと、既に契約を結んでいるお客様、契約に近いお客様との約束は守られ、そうでないお客様との約束は後回しになっているはずである。
こうやって冷静に考えてみると、これがいかに契約に負の効果を与えているかは分かるはずである。
当然ながら、ある時点から今後どのお客様がより多くの契約をもたらしてくれるかは誰にも分からない。
これは自身の過去の契約を振り返ってみれば簡単に分かる事である。
しかしながら、営業職側は限られた情報の中で、一方的にそのお客様のその時点の価値から優先順位を決め、約束にも優先順位をつけているはずである。
当然営業職が全く知らない所で失注はかなりあるはずである。
勿論、営業職側がお客様の価値や優先順位をつけるのは当然のことである。
それ自体を否定している訳ではない。
営業職が持ち得る時間やコストに限りがある以上、全ての面において、全てのお客様を平等に扱う必要などない。
だからこそ、交わした約束くらいは守ろうと言っているのである。
その秘訣
難しく考える必要はない。
守れない約束はしなければいいのである。
一時の契約を取るために商品の魅力をかさ上げすると同様にその場を取り繕うために約束し、無意味で不必要な期待をお客様に抱かせ、結果的にその期待を裏切るのは売り手の独り相撲である。
であれば最初からお客様に必要以上の期待を抱かせなければいいのである。
勿論、守れるはずだった約束が守れなくなることは誰にだってあるだろう。
会社員なら尚更ある。
その時は、その約束を交わしてなかったことにするのではなく、守れなくなったことを相手に伝えることである。
こうした行動の一つ一つが信頼を勝ち得る大きな原動力となる。
約束を守ること(守れない約束はしないこと)、
そして守れなくなった時はそれを認めること。
これらはビジネスパーソンとしての素養でなく、本来は人間としての素養である。
この事を地道に続けることでお客様の期待を裏切り、お客様の心が離れていくことを極力減らすことができるのである。
まとめよう。
残念ながら、熱心に営業活動を展開すれば、ひんしゅくを買うことはある。
お客様から嫌われる事もゼロにはできない。
熱心な営業活動とひんしゅくを買うことはトレードオフである。(どちらかを立てれば、どちらかはうまくいかないこと)
だからと言って、嫌われないことが目的であってはチャンスを増やせない。
目的はあくまで契約の獲得なのだから。
そして、お客様の心が最も離れていく時とは、お客様の期待値を下回った時であり、営業職にとってのそれは約束を守られなかった時である。
まずは約束を守ろう。