さて、皆さんはこんな疑問を持ったことはないでしょうか?
それは「同じお客様に、同じ商品説明を何回まで繰り返しても良いのか?」という事です。
※今回は、
同じ商品説明=同一の商品についての説明・プレゼン
という意味で使っています。
この事は営業活動を始めて間もない方からはよく聞かれます。
しかし、実は数年の営業経験を経た営業職も、或いはもっとキャリアのあるベテラン営業職も同様の疑問を抱いているのではないかと思います。
この疑問を解き明かしていくと、最終的には必ず「営業活動の本質とお客様から見た営業職、並びに商品説明の在り方」に辿り着きます。
ですので、今回は「同じお客様に、同じ商品説明を何回まで繰り返しても良いのか?」について解説します。
ある営業職Aさんとのやり取り
以前、ある営業職Aさんとこんなやり取りがありました。
Aさん「X社のYさんというお客様がいまして、何とかして攻略したいお客様です。
Yさんは気さくな方で『話を聞くくらいなら出来るよ』と言ってくれ、これまで何度も商品説明の時間をいただいています。
でも、商品説明は一通り終わって、もう話すネタがなくなってしまったんです。
しかもYさんは『商品説明なら時間を取るけど、テーマの定まっていない時間は取りたくないから、雑談のための時間は取れないよ。』と言うんですよ。ウチにもっと取扱商品がたくさんあればいいのですが・・」
川端「商品説明は全商品何回ずつさせていただいたのですか?」
Aさん「一回ずつです。一応全商品、最後まで聞いてもらいましたので、とりあえずそれで完了だと思っています」
川端「分かりました。では、一旦Yさんのことは忘れてください。
そして、これまで契約をいただいたお客様をざっと振り返ってみてください。
一回の商品説明で契約締結に至ったという場合はどのくらいありますか?」
Aさん「いや、それはほとんどないですね。
契約に至った場合は何度も同じような説明をしたり、質問を受けたり、『あれ?』となるような勘違いをお互いしていてそれを訂正したり、そんなことを繰り返しながらようやく契約に着地、という形が多いと思います」
川端「そうですよね。恐らくAさんだけでなく、多くの営業職がそうだと思います。一回の商品説明で契約に至る事の方が珍しいですよね。
それなのに、何故Yさんには【一回ずつの説明で完了。もう話すネタがない】と思われたのですか?」
Aさん「・・・・・・・」
さて、このやり取りを読んで、皆さんはどのように感じましたか?
予め言っておきますが、Aさんのような営業職は大変多いです。
恐らく大多数はAさんと同じようなスタンス・考えだと思います。
結論から言うと、何度繰り返しても構わない。
結論から言います。
同じお客様への同じ商品説明は何度繰り返しても全く構いません。
積極的に何度も行ってください。
むしろ本当に契約を獲得したいのなら、何度も何度も行うべきです。
ですが、現実にはこのことを実行できる営業職は少数だと思います。
また、それを何となく実行することは出来ても、何故繰り返し行うべきかを明確に答えられる営業職はもっと少ないと思います。
理由は実にシンプルです。
以下二つです。
1⃣お客様はたった一度の説明で商品のことを理解できないから。
2⃣お客様の状況が変われば、その商品が全く違って見えるから。
理由その1⃣
まず一つ目からです。
1⃣お客様はたった一度の説明で商品のことを理解できないから。
勿論それはお客様の理解力が低いという意味ではありません。
まず大前提として、多くの場合、お客様はそれほど真剣にあなたの商品説明を聞いてなどいません。
何故なら真剣に聞く理由がないからです。
正確に言うなら、真剣に聞く姿勢になるまでに時間がかかるということです。
そういう意味では、お客様は必要に駆られなければ営業職の話に真剣に耳を傾けることなどあまりないと思った方がいいでしょう。
これらはお客様が「営業職は契約や注文を獲得したいがために、実態よりメリットを高く見せようとする存在」だと思っている事と無関係ではありません。
(話は脱線しますが、このお客様の営業職への見方をいかに解消するか、営業職は『いかに自身の説明が客観性を伴っているか』をクリアすれば営業職の話は飛躍的にお客様に受け入れられ易くなります。)
また、お客様から見ると、あなたの説明を即座に理解すべき理由は特にありません。
何故なら、基本的な事でしたらあなたの会社のHPなどから簡単に分かる上に、その後理解が必要になった時はあなたに何度でも聞き直すことが可能だからです。
もう一つのお客様の顔
もう少し別の観点からアプローチしますと、お客様は営業職の商品説明を受ける際には、基本的にあまり理解・把握などしていなくても、条件反射的に分かったような顔をすると思った方がいいと思います。
少し考えれば想像できると思いますが、営業職が自社の商品説明をおこなうプロフェッショナルならば、あらゆる営業職の相手を日常的にこなすお客様担当者は『営業職の相手をするプロフェッショナル』です。
どのような態度をすれば営業職が喜び、または諦めるかを熟知していて、その延長線上にあるのがまるで分かってなくても理解したように見せかけることであり、『営業職の相手をするプロフェッショナル』ならば造作もないことです。
営業職はお客様の聞く様子やその場で受けた質問などから「このお客様は自分の説明を理解しているな」と思い込みがちですが、恐らく多くの場合営業職の体感よりはるかにお客様の商品への理解度は低いと思います。
こうした理由から、お客様はあなたの商品説明に対して、多くの場合低い真剣度と低い集中力で話を聞いているということになります。
当然の結果として、営業職が思っているほどお客様は既に説明を終えた商品の事をそれほど理解はしていません。
まして、たった一回の商品説明などで理解している範囲はごくわずかだと思いますし、理解した部分も数日後には忘れてしまっているはずです。
ですので、「ここは重要なことなので、改めて説明させていただきます」と一言添えて、再度説明すれば何の問題もありません。
にもかかわらず、営業職がそれが出来ないのは、多くの場合、『同じ説明をするのはお客様に悪いから』というお客様側への配慮ではなく、『同じ説明をするのは気が引ける』という営業職側の気持ちの問題ではないでしょうか?
理由その2⃣
次に二つ目です。
【お客様の状況が変われば、その商品が全く違って見えるから。】
この『お客様の状況』とは、お客様が抱えている問題や課題が変わる、会社として方針や必要なことが変わるということに限りません。
単純にあなたへの好感度の上昇、または下落があります。
これはライバル会社にも同じようなことが起き得ます。
つまり、ライバル会社とお客様との間のトラブル発生や不満の噴出などで状況が変わるというケースもあるということです。
或いは、あなたへの好感度の上昇によって、現在採用しているライバル会社に対して、相対的に評価を下げるという不思議な現象もよく起きます。
こうした現象はお客様があなたに対して「何とかこの営業職の努力に報いたい」という結論だけが先に出たことで起きる事故のような出来事です。
こういう思いをお客様担当者に抱かせる営業職は相当に強く、勝率も高いはずです。
更に言うならば、このあなたへの好感度の上昇は商品への評価などとは関係なく、何かの拍子に起きることもしばしばあります。
これはいついかなるタイミングで起きるか予想が難しいため、とにかく一人のお客様と長く継続的に付き合うのがこうした状態の発生を待つのに最も理に適っていると思います。
このようにお客様の状況は刻一刻と目まぐるしく変わります。
あまりそういう事は起きませんが、仮にFという商品の説明を終えFの事をお客様が完璧に把握していたとしても、状況が変われば、Fへの見え方も変わります。
このように状況の変化によって見え方が変われば、評価すべきことも必要なことも変わります。
本来はその変化に応じて、同一の商品についての説明であってもその内容や伝え方を微調整するのが理想ですが、それらの変化全てを営業職側で把握するのは至難の業です。
ですので、常に変化し続けている前提で、何度となく同じ商品説明を行うことが必要になります。
これは要するに「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」という事ですが、営業という仕事の特質上、割り切ってこうしたスタンスを取れる営業職の方が結果を出せるモノです。
以上、2点からお客様に何度同じ商品説明を繰り返しても問題ありません。
付け加えるなら、そのことに難しさを感じるのは営業職側の「ビジネス上、同じことを何度も言ってはいけない」という思い込みに過ぎないと思います。
私は営業職から、「同じお客様に、同じ商品説明を何回まで繰り返しても良いのか?」と聞かれればだいたいこのような説明をしています。
第二の質問
すると、次に来る質問が
『どの程度時間を空ければ、2回目の商品説明を行っても大丈夫ですか?』です。
しかし、ここまでの私の説明を理解した上で、素直に受け入れることが出来れば、このような質問自体が来ることはないはずですよね。
論理的には翌日に昨日と同じ説明をしても構わないというのが本当です。
それがどうしても抵抗があれば、自身で『〇週間ほど空ける』という風に事前にルールを決めておくことをお勧めします。
私のメーカー営業時代の話
因みに、私がメーカー営業をしていた時などは、新規開拓のために同じお客様に毎週のように通っていました。
そして、毎週全く同じ商品説明を何度も何度も繰り返し行っていました。
お客様によっては
「川端さん、その話いったい何度すれば気が済むんだよ」と突っ込まれましたが、
「それは注文いただくまでは何度でもしますよ。まして注文しないと私の説明なんかすぐに忘れ去られますから」と反論し、何度も何度も同じ説明を繰り返していました。
勿論こうしたやり取りも契約の有無に関係なく、お客様へのアプローチを積み重ねていく事でお客様から好かれ、ある程度のことが許される人間関係が作れたからこそ出来ることです。
こうした好循環が営業職の自由度を上げ、契約を手繰り寄せるのです。
「何度同じ説明をすれば気が済むんだよ」と突っ込んでいたお客様も、実際にいざ契約や注文を本格的に検討する時には繰り返し説明していた商品のことをそれほど深く理解していませんでした。
これはほとんどのお客様がそうです。
もう一度ゼロから説明という場面もしばしばありました。
それだけお客様に営業職の話を理解してもらうことは難しいとも言えますし、逆に商品の事をそれほど深く理解していなくても、お客様は契約や注文を検討することが可能だとも言えます。
私はそのことを熟知していたので、躊躇なく何度でも同じ説明が出来たのだと思います。
営業の世界のみならず、何となく言われている言葉でこのようなモノがありますよね。
【大事なことは何度でも伝えるべき】
これらの根拠も実はこのようなことではないでしょうか?
営業という仕事の真の姿
まとめも兼ねて、根本的な話をします。
営業職が忘れてはならないのは、商品説明はいったい何のために行うのかということです。
その目的はあくまで契約獲得です。
我々の行動の目的は、心地よく違和感なく仕事に取り組むことではありませんし、まして商品説明をすること自体が目的であってはいけません。
そこを忘れてはいけません。
そしてそれを理解していれば、これらすべての質問にはおのずと答えが出るはずです。
同じお客様に何度でも同じ商品説明を繰り返しても構いません。
そして、間違っても一通りしたからと言って、足が遠のくことがないようにしてください。
アプローチ量を常に積み重ねる、長く付き合う、そしてお客様に好かれ、信頼される、そのために常に躊躇なくベストを尽くす、それが『営業という仕事の真の姿』ではないでしょうか?